[230] 2013-02-14 (Thu) : GEバレンタイン小ネタ
どこか浮わついた雰囲気の漂うエントランスを大股で横切りながら、タツミは一つ息を吐いた。毎年この日は憂鬱だ。バレンタインなんて無くなってしまえばいいのに。
不機嫌を隠そうともせずにエントランスを行き交う人々を睨み付けていると、見知った顔を見つけた。何やら退屈そうにソファに腰掛けていたので近づいて声をかける。
「リンドウさんじゃないですか。こんなところで何してるんです?」
「おータツミか。これから姉上とサクヤと食事に行くんだが、良かったら一緒にどうだ?」
待ち合わせより早く着いちまったんで、退屈してたんだ。丁度いいから、ちょっと付き合えよ。
苦笑するリンドウは手ぶらで荷物など持ってなさそうにみえる。勧められるまま隣に腰を下ろし、なけなしの勇気を出して訊いてみる事にした。
「リンドウさん。今日、いくつ貰いました?」
「……二個。そういうお前は?」
「一個、です」
唯一のチョコさえ、一つも貰えなかったと落ち込んでいたタツミに同情したソーマが自分の分をくれたものなのだが、それは言わないでおく。
「でも、リンドウさんはこれからサクヤちゃんのを貰えるんでしょう?」
「それがなあ。『今日一日禁煙出来たらあげる』って言われたんだよ……」
「ああ。それで今日は吸ってないんですね。偉いなあ」
「思いの外辛くてなあ。そろそろ禁断症状が出そうなんだ」
「もう少しの我慢じゃないですか。頑張りましょうよ」
気のない励ましを口にしたタツミの頭を軽く小突く。大袈裟に痛がる様子を眺めていると、リンドウの背後から声がした。

「何してるんだ」
「よう、ソーマ。相変わらず元気そうだな。で、お前は何個貰ったんだ?」
「……一個と半分」
「半分?」
「さっきタツミと分けた」
「ああっ!言わなければバレなかったのに!しかもあの後ちゃっかり貰ってるし!羨ましいぞこの野郎!」
「あー、なるほど。そういう訳ね」
がっくり項垂れたタツミにリンドウは同情の眼差しを向ける。

「結局、誰が一番貰ってるんだ?」
「ああ。そりゃお前、毎年姉上の一人勝ちだよ」
「ツバキさんって、何だかんだ言っても面倒見がいいですもんねえ」
「女の子にも人気だしなあ」
「今年もおすそわけしてくれないかなー」
「俺達はちっとも貰えないのにな」
「本当にねえ。ここにも良い男が居るってのに」
「なあ……」

だんだん小さくなる声は、やがて雑踏に紛れて聞こえなくなった。

男だらけのバレンタイン。
ツバキさんは女子に人気ありそうだなーという妄想。