「ああ、リンドウくん。良いところに帰ってきたねえ」
疲れた体を引きずってアナグラへ帰投したリンドウを出迎えたのは、満面の笑みを浮かべたペイラーだった。
怪しげな箱を持って手招きするその姿に思わず後退りしそうになるが、何とか堪えてリンドウはペイラーの側へ向かう。
「何か用ですか?」
「大した事ではないんだけどね。今日はバレンタインだろう?」
「はあ……」
そういえば朝からタツミが騒いでいたな、とリンドウが頷くとペイラーは手に持っていた箱をリンドウに差し出した。
「そういう訳で作ってみたんだ」
「──は?」
「いつも貰ってばかりだからね。お礼も兼ねて作ってみたんだよ。我ながら上手く作れたと思うんだ」
「サカキ博士の……手作り、ですか?」
「そうだよ」
それは果たして食べ物なのか──と喉まで出かかった言葉を寸前で飲み込んで、当たり障りのない感想を口にする。
「あー、それは凄いですね」
「それがねえ、誰も食べてくれないんだよ。また実験台にするつもりですか!って怒られてしまって」
「…………日頃の行いって大事ですからね」
「何か言ったかい?」
「いいえ、何にも。つまり俺に実験台──もとい、味見をして欲しいって事ですか?」
「そうなんだ。頼めるかい?」
「あー、それくらいなら、まあ。ところで一つお訊きしたいんですが」
リンドウは箱の中身を指差すと、普段からは想像がつかないほどの真剣な声音で尋ねた。
「コレ、一体何が混入されているんです?」
「変なモノは入ってはいないよ。今回は普通に作ったからね」
「いつも変な物を作ってる自覚があったんですか。だったら普通に作って下さいよ」
笑いながら軽口をたたいて、箱の中身を一つ摘まんで口に入れた。
「──どうだい?」
「うん、美味いですよ」
「体の具合は?どこか悪くなってたりしないかい?」
「?別に、普通ですけど……」
「それは良かった。──リンドウくん、君の協力に感謝するよ」
「……やっぱり何か入ってたんですか?」
「いや?何にも入れてはいないよ」
上機嫌で微笑むペイラーの胸倉を掴んで、その箱の中身を口に全部突っ込んでやろうかとリンドウは半ば本気で思案した。
リンドウさんとペイラー榊。