Menado Ensis

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GOD EATER

エントランスのソファに腰掛けたソーマが途方に暮れていると、誰かがやってくる気配がした。
「あれ?ソーマ君じゃん」
声のした方に眼を向ければ、リッカがこちらへ歩いてくるところだった。その顔は何やら不機嫌そうに見える。
「ねえ、タツミさん見てない?もう帰って来てるはずなのに、まだ神機が戻ってこないから探してるんだけど」
神機を受け取りに来たんだけど、全然見つからないんだよね。どこに居るんだろ。
不満気に頬を膨らませているリッカをよそに、ソーマがぼそりと呟いた。
「……タツミなら、ここに居るぞ」
「えっ?」
思いがけない返事にリッカは眼を丸くした。出来るだけ音を立てないように近づくと、ソーマの肩越しにソファを覗き込む。
そこには、ソーマの膝を枕にして横たわってるタツミが居た。微かに聞こえてくるものは寝息だろうか。
「──眠ってるの?」
「ああ。しんどいから少し休むんだそうだ」
「珍しいね、こんなところで寝てるの。……あっ!そうだ、神機は?」
「そこにある」
ソーマが自分の足元を指差した。目当ての物を見つけたリッカの顔がぱっと明るくなる。そのまま神機のケースを掴もうとして、はっとしたように動きが止まった。
「……勝手に持って行ったらダメだよね」
一言断りを入れないと、とリッカがタツミの頬を軽く叩く。
「タツミさーん!神機持ってくよー」
二三度叩くが、僅かに身動ぎしたくらいで起きる気配は無い。しばらく様子を見た後、リッカは困ったように腕を組んだ。
「ダメだこりゃ。全然起きない」
どうしたら目が覚めるかなと思案しているリッカに、ソーマが声をかけた。
「なあ、頼みがあるんだけど」
「ん?なに?」
「何か、冷たい飲み物を買ってきてくれないか」
唐突なソーマの頼み事に驚いたが、すぐに笑顔で頷く。
「うん、いいよ。何か買ってくる。喉渇いてるんなら、甘くない方がいいよね?」
「別に飲みたい訳じゃねえから、何でもいい」
「え、どういうこと?」
「──油断してるところに、冷たい物をくっつけられると驚かないか」
「ああ、なるほど!確かにそれならタツミさんも起きるかも。ソーマ君って頭いいね」
「…………前に、リンドウにやられた事がある」
「そ、そうなんだ……」
リンドウさんったら何やってんの、とリッカが頭を抱えているのを横目に、ソーマは上着のポケットから代金を取り出した。
「じゃあ頼む。────それと、お前の分も買っていいから」
「えっ」
驚いてソーマを見ると眼を逸らされた。どうやら、お使いに行くお礼代わりに奢ってくれるらしい。そんなソーマの心遣いが嬉しくて、リッカは思わず抱きついた。
「ありがと、ソーマ君!」
「なっ!?」
「急いで買ってくるからねー」
予想外の出来事に硬直しているソーマから代金を受け取り、リッカは小走りにエレベーターに乗り込んだ。


2011.05.29 up