Menado Ensis

Photo by 戦場に猫  Designed by m.f.miss

GOD EATER

「よう、お疲れさん」

声のした方を向くと、リンドウが片手を上げてやってくる所だった。
ここ座るぞ、と返事も聞かずにソーマの隣に腰を下ろし、疲れたように一つ息を吐く。
「……仕事、終わったのか?」
「ん?ああ。丁度終わったトコだ。──にしても、今日の仕事は疲れたなあ。普段の倍は働いたぜ」
答えながら手を動かし、上着から煙草を取り出して銜える。ソーマをちらりと見て、構わないか、と訊いてきた。
ソーマが頷くのを確認して煙草に火をつける。壁にもたれて紫煙をくゆらせるリンドウに、ソーマは控え目に声をかけた。
「なあ」
「ん?どうした。ああ、ひょっとして煙たかったか?悪い悪い」
「違う」
「あー、……ここって禁煙だっけ?」
「知らない」
声を潜めて深刻そうに訊いてきたリンドウに、呆れたように答える。最初に確認しておけよ、と口の中で呟いて、ソーマはリンドウを見上げた。

「訊きたい事がある」
「俺に?」
何だろう、とリンドウは小首をかしげる。その様子を窺いながら、そっけなく尋ねた。
「お前、オペレーターの奴と仲がいいのか?」
予想外の質問に眼を丸くしたリンドウだが、それも一瞬の事だ。すぐに口元にニヤニヤとした笑みを浮かべ、ソーマの頭をフードの上からぐりぐりと撫で回した。
「おお?何だ、ようやくそういう事にも興味が湧いてきたか。──サクヤが気になるのか?」
「違う」
リンドウの手を払いのけてソーマが答える。違うのか、と何か考えるように顎に手をやったリンドウが、首を捻りながら呟いた。
「……じゃあ姉上とか?」
「──あんな女は願い下げだ!」
思ったより強い否定の言葉にリンドウが驚いた顔でソーマを見ると、ソーマはばつが悪そうに横を向いた。
「……タツミが」
「ん?」
「リンドウとあの女がどういう関係か気になるから訊いてくれって頼まれた」
「あータツミね……」
きっと訊けと言われたから訊いただけで、他意は無いんだろうなと予想がつく。ようやく他人に興味が出てきたのかと期待してしまっただけに、少し残念な気持ちがあるのも確かだ。
「まったく……ぬか喜びさせやがって」
「何をぶつぶつ言ってるんだ」
まだ答えてもらってない、とソーマが抗議する。責めるような目線を感じながらゆっくりと煙を吐き出すと、リンドウは勢い良く立ち上がった。
「おっし!決めた」
「いきなり何だよ……」
「さっきの質問の答えだけどな、お前自身がじっくり観察して答えを出せ」
「はぁ?」
「確認する機会は多い方がいいからな。今日から一緒に飯を喰うか。──よし、そうと決まったら早速行くぞ!」
呆気にとられているソーマを後目に、先に行ってるぞと歩き出した。去っていくリンドウの後ろ姿を眺めながら、ソーマはどうしたものかと思案する。

(一体何だっていうんだ……)
自問したところでリンドウの考えなどわかる訳がない。タツミに出来ると言った手前、やっぱり無理でしたとは言いたくない。

──そうなると、選択肢は一つだけだ。

ソーマはため息混じりに立ち上がると、リンドウの後を追って歩き出した。


2010.08.01 up