Menado Ensis

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GOD EATER

ただ座っているだけでも落ち着かない。隣を見れば、どこか気もそぞろといった感じのリンドウが紫煙をくゆらせている。
待つことしか出来ないという事を頭では理解しているのだが、どうにもじれったい。
少しでも気をまぎらわせようと、ソーマはリンドウに断りを入れて自販機へ向かった。

「──え、あいつら死んだの?」
「どうもそうらしいって話だぜ。通信が途中で途切れたきりだとか」
「へえ。そりゃあ絶望的な状況だな」
「ツバキさんにタツミ、あと新人が1人だっけ?……死神が同行してたってんじゃないのに、ホント不運だなあ」
商品を選んでいる途中で聞こえてきた言葉に、ソーマはぎくりとした。はずみでボタンを押してしまい、思わず舌打ちが漏れる。 のろのろとした動作で缶を取り出して席まで戻ると、新しい煙草に火をつけているリンドウに買ったばかりの缶を差し出した。
「ん、何だ?」
「やる」
「おお、悪いな。──って『冷やしカレードリンク』?お前こういうの好きなのか?」
「……押し間違えた」
「何だかんだでお前も動揺してるのな」
からかうように笑いプルトップを開けて一口飲む。そのまま顔をしかめると、リンドウは缶のラベルを見つめた。
「あー……これは、今みたいな気分の時に飲むモンじゃねえわ」
「……」
リンドウの軽口に応じる気もおきなくて、ソーマは黙って隣に腰を下ろした。


静寂の中で時間だけが過ぎていく。沈黙が続くと、どうしても嫌な事ばかり考えてしまう。 自販機付近で漏れ聞いた話が頭から離れない。

死んだ。

絶望的な状況。

──死神。

一緒に任務に行ったわけでもないのに、ただ他の人たちよりほんの少し付き合いが長いだけなのに、それでも何か影響があるんだろうか。不安で押し潰されそうだ。
たまりかねて、ずっと考えていた言葉がこぼれ落ちた。
「……なあ」
「ん?」
「やっぱり、もう──」
「姉上に限ってそれは無い」
続く言葉をはっきりと否定する。リンドウは手の中の缶を持て余しながら、ソーマに眼をやり口角を上げた。
「大体、こんな程度でくたばる連中かってんだ。それに」
勝手に殺すと後が怖いぞ、と小声で耳打ちしてくる。まるで、こんな話をしている所を見られたら困るとでもいうような態度に、ソーマは緊張が解けるのを感じた。
いつの間にか、らしくない事をしてしまっていたようだ。大きく息をすると普段の調子でそっけなく言う。
「……まあ、そうそう簡単に死ぬような奴らじゃねえか」
「そういう事だ」
リンドウが煙草の火を揉み消すと同時に、エレベーターからリッカが慌ただしく飛び出してきた。
「あ、二人ともこんな所にいたの。探してたんだよっ!」
「ようリッカ。そんなに急いでどうした?」
「あのね、ついさっき、ツバキさんたちから連絡があって、怪我人がいて動けないから、迎えに来てくれ、だってさ!」
息を弾ませて報告するリッカに、リンドウが笑いかける。
「おお、そうか」
「それで、今、手が空いている人は下に集まるようにって」
「……わかった」
リッカに促されてソーマが席を立つ。隣で座ったまま立ち上がる素振りもみせないリンドウに怪訝な顔をした。
「おい」
「あー…悪いな。先に行っててくれ。俺はコイツを片付けてから行くからよ」
困ったような顔で、もう温くなってしまった『冷やしカレードリンク』の缶を軽く振る。 ソーマがああ、と眉間に皺をよせた。
「それ、まだ残ってたのか」
「なかなか手強くてなあ」
「ほら、早く早く!──ってなにそれ、そのジュースそんなにやばいんだ?面白そう!私も今度試してみよっと。じゃ、リンドウさんも出来るだけ早く来てね」
ソーマの背中を押してリッカが去っていく。その足取りもどこか軽い。
そんな二人の様子を微笑ましく見送って、まだ半分ほど残っていた缶の中身をぐっと一息に飲み干した。
「ひでえ味だなあ。一体誰が好き好んで飲むんだ、こんなモン」
苦笑しながら缶を握りしめる。気を抜くと視界が歪みそうだ。どうやら予想以上に堪えていたらしい。

「……──本当に無事で良かった」
ほっと胸を撫で下ろすと、リンドウはそのまま椅子にもたれてずぶずぶと沈んだ。


2010.12.31 up