Menado Ensis

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GOD EATER

何だか頭がふわふわする。時折何かが髪を撫でているような感じがしたけれど、不思議と嫌だとは思わなかった。
寝起きの感覚に似ている気がするが、自分はいつ眠ってしまったのだろう。 徐々に意識が覚醒していくのを自覚した途端、後頭部に鈍い痛みがはしる。
寝ぼけてぶつけたような記憶は無い──と考えて、ある事に思い当たった。

自分は今、戦闘中ではなかったか。

ずきずきと痛む頭で、意識を手放す直前の事を思い返してみる。
確か、狭い路地でアラガミの攻撃を無理な体勢で防御したために、思いっきり吹っ飛ばされたはずだ。その際に、老朽化が進んでいたらしい壁をぶち抜いてしまい、そのまま崖を転がり落ちたあたりで記憶が途切れている。
我ながら間の抜けた事だ、とソーマが自嘲しながら眼を開けると、頭上から声をかけられた。

「気がついたか?」
声のした方を見上げると、ツバキが顔を覗き込んでいるのが見えた。
二三度瞬きして自分の置かれた現状を把握する。どうやらツバキの膝に頭を置いているらしい、と気がついた瞬間に跳ね起きた──つもりだったが、ツバキにやんわりと止められてしまった。
「もう少し横になっていた方がいい」
覚えてないのか?お前、頭を強く打ったんだぞ。言われてみて、この鈍い痛みはそのせいか、と思う。 少し頭を持ち上げただけで目が回ったり吐き気がしたりするので、ツバキの言う事は正しいのだろう。多少マシになるまで大人しく横になっているべきだ。
頭ではわかっているのに、こんなところをリンドウに見られたら、と思うとどうにも落ち着かない。
「……リンドウは?」
「無事に標的を仕留めたから、これから合流するそうだ。迂回するから少し時間がかかるかもしれないと、さっき連絡があった」
「そうか」
気まずい雰囲気で眼を伏せたソーマの髪を、ツバキは指で軽く梳きながら語気を強めて尋ねた。
「お前、私を庇っただろう」
「……」
「そんなに私は信用が無いのか?あの程度なら一人でも大丈夫だぞ」
「……お前の大丈夫は当てにならねえ」
ぽつりと呟いたソーマに、ツバキが僅かに眼を見張る。
「──ひょっとしてお前、あの時の事をまだ気にしているのか?」
「……」
「あれは私の判断ミスだ。お前のせいでは無いと言っただろう?」
「別に、気にしてるわけじゃない」
ソーマが顔を隠すように片腕を上げた。これ以上は何を言われても答えないぞ、とでもいうようなソーマの態度に、ツバキは息を吐く。 そんな態度へ少しばかりの抗議の意味を込めてソーマの髪を軽く引っ張っていると、わずらわしげに手を払われた。
「────ツバキ」
「ん?」
「……怪我は?」
「してないぞ。お前のおかげだな」
ありがとう、と言うと、ソーマは居心地が悪そうに身じろぎした。
「礼を言われるような事なんてしてない」
「お前にとってはそうかもしれないが、私は礼を言いたい気分なんだ。──守ってくれて、ありがとう」
ツバキが笑みを浮かべてソーマの顔を覗き込むが、まるで視線を逸らすようにそっぽを向かれてしまった。

「…………頭が痛いから、少し寝る」
リンドウが近くまで来たら起こせ。ぶっきらぼうに頼むと、ソーマは眼を閉じた。


2010.10.06 up