Menado Ensis

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GOD EATER

真剣な顔をしたサクヤから、『相談したい事がある』と呼び出されたツバキは、久しぶりに新人区画でエレベーターを降りた。
仕事を終えてから来たので、随分と遅くなってしまった。

(もうこんな時間か……。サクヤが怒ってなければいいが)
一段落ついてからでも構わないとは言われたが、こんなに遅くなるとは予想外だろう。
そういえば、もうじきサクヤの初任務だったか。もしかするとナーバスになっているのかもしれないなと考えながら歩進めて部屋の前に着いた。
少し躊躇った後、扉の横にあるインターホンを押す。
「サクヤ、私だ。まだ起きているか?」
もう寝てしまったかと思ったが、ややあって反応があった。
『──ツバキさん?』
「そうだ。遅くなってすまない。……もうこんな夜更けだし、随分と待たせてしまってから言うのも何だが、明日出直そうか?」
『ううん、大丈夫。開いてるから入ってきて』
「わかった」
話を切り上げて扉を開ける。一歩踏み出して部屋に入ってみれば、サクヤの姿が見当たらない。

「サクヤ?」
きょろきょろと辺りを見渡すと、ベッドの奥からひょっこりと頭を覗かせているサクヤと眼が合った。
「そんなところで何をしているんだ?」
ツバキが小首を傾げて問いかける。あのね、と前置きしてサクヤが口を開いた。
「もうすぐ初めての任務があるでしょ?でね、その事について相談があるんだけど……笑わないで聞いてくれる?」
「ああ」
「あのね、ツバキさんが前に言ってたでしょ。神機使いの服装について『支給された制服でなくても構わない』って。それで、あの……こ、この服を着ていこうかなって思うんだけど」
言うなりサクヤが立ち上がった。
身に着けているのは、黒と緑を基調にしたナイトドレス風のデザインとでもいうのだろうか。剥き出しの肩や背中、大胆に開いた胸元が特徴的な服だ。
聞けば老舗オーダーメイド店の衣服だという。
目を見張っているツバキに、おずおずとサクヤが尋ねた。
「──ダメかな?」
心配そうな顔をしているサクヤにツバキは笑いかける。
「いや、いいんじゃないか。良く似合ってるぞ」
「本当?──良かった、新人はダメって言われるかと思った」
サクヤがほっとしたように笑った。
「新人だからダメ、というのは理由にならんだろう。現に、ソーマは最初から好きな服装をしているし」
「そういえばそうかも。……ツバキさん。あの、ね」
「ん?」

何か言いたげにもじもじしているサクヤを、ツバキは不思議そうな顔をして見る。
「…………この服、リンドウは気に入ってくれるかしら…?」
真剣な顔をしているサクヤには悪いが、ツバキは小さく吹き出してしまった。
「あー笑った!笑わないでって言ったのに!」
「すまない、悪気があった訳じゃないんだ」
頬を膨らませたサクヤを宥めるように微笑む。
「大丈夫だ。きっとリンドウは気に入ると思うぞ。──あんまりサクヤが可愛いから、見惚れて棒立ちになるんじゃないか」
「やだ、ツバキさんったら!」
からかわないでよ!とサクヤは顔を赤くする。どうやら機嫌は直ったようだ。
ほっとしているツバキに、サクヤがそういえば、と訊いた。

「ツバキさんは着替えたりしないの?」
「ああ。この格好の方が楽でいい。それに──それこそ笑わないで聞いて欲しいんだがな」
「なあに?」
「他の服装だと胸が邪魔で動きづらい」
大げさに肩を竦めてみせたツバキの仕草が可笑しくて、サクヤは声を上げて笑った。


2010.08.29 up