Menado Ensis

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GOD EATER

エントランスの床に正座している二人の少年を見下ろして、リンドウは呆れたように一つ息を吐いた。
「お前らさ……」
「だってリンドウさん!聞いてくれよ、カレルの奴が!」
「っ!シュン、お前も同類だろうが!一人だけいい子ぶりやがって!」
「何だよ!俺が悪いってのか!」
「悪くないとでも思ってるのか!お前が馬鹿なのは知ってたが、ここまで救いようのない馬鹿だとはな!」
「んだとこの野郎!ケンカ売ってんのか!?」
「そっちがその気なら受けて立つぞ!」
「…………あー、お前らちょっと黙れ」
珍しく少し怒気を含んだリンドウの声音に、お互いを罵り合っていた二人がぴたりと口を閉ざす。 無言で睨み合いをしている少年たちは果たして、自分たちが叱られている自覚があるのだろうか。
「いいか、どっちが悪いかなんてどうでもいいんだ。ミスは誰にでもあるからな。──問題は、お前ら二人のせいでジーナが怪我をしたって事だ」
「そ、それは……」
「任務中に些細な事で言い合いになって仲間に怪我をさせるってのは、どういうつもりなんだ?」
「……」
「お前らの仲が良くないってのは俺も知ってる。けどな、任務中にまで喧嘩するような馬鹿だとは思ってなかったぞ」
淡々とした口調でリンドウに事実を指摘され、シュンとカレルはしょんぼりと下を向く。
自分たちのせいで仲間が酷い目にあったという事は、どうやら理解しているらしい。
俯いていたシュンが、眼にうっすらと涙を浮かべながらリンドウを見上げた。
「……リンドウさん、ごめんなさい。俺、ジーナに酷い事しちまった」
「俺も、ついむきになって──悪かった。反省している」
シュンに続いてカレルも口を開く。まだ難しい顔をしているリンドウに向かって二人で頭を下げる。
「もうケンカはしないって約束する!だから、ジーナを助けてくれよ!」
「頼む!これからは任務中は絶対に油断しないと約束するから!」
「────よし。お前ら顔を上げろ」
リンドウに促されて面を上げると、容赦のない拳が頭上から降ってきた。
「うっ!」
「痛ってえ!!」
涙目で頭を抑える二人にリンドウは嘆息混じりに片目を瞑ってみせる。
「おしおきはこれくらいにしておいてやる。さっさと医務室に行ってジーナに謝って来い」
「えっ!ジーナ大丈夫なのか!?」
「ああ。随分派手に血が出たみたいだが、まあ二三日くらい安静にしとけば大丈夫だろうって話だぜ」
「本当か!?良かったあ……」
ほっとした表情でシュンは正座していた足を投げ出した。カレルも安心したようで、いつものふてぶてしい態度が戻ってきている。
「あんたも人が悪いな。大した怪我じゃないって事、知ってたんだろ?」
「結果的に今回は大した事じゃなかっただけで、次も同じとは限らないだろ。油断した奴からあっけなく死んでいくんだ。状況も考えられずに敵の真っ只中で喧嘩する連中もいることだしなあ」
「それは悪かったって言ってるだろ。あんまりいじめるなよ」
「なあに、ちょっと釘を刺しとこうと思ってな。ほら、早く行けって」
「わかった」
「はいはい、了解っと」
立ち上がってエレベーターへ向かう二人の背中にリンドウが声をかける。
「おい、お前ら。──次は無いからな」
普段のリンドウとは違う声色に、二人は彼が怒っている事を知った。とてもじゃないが振り返る勇気は無く、やっとの事で頷くと先を競うようにエレベーターへ乗り込んだ。

「……リンドウさん、怒ってたな」
「……ああ」
「俺、もう任務中に馬鹿やったりしないぜ」
「当たり前だ。──むかついたりした事は、アナグラに戻ってきてから話し合う事にしよう」
「いいな、それ。これからはそうしようぜ」
「その為にも、まずはジーナに謝らないとだ」
「……許してくれるかな」
「わからん」
ジーナが許してくれる事を祈りつつ、医務室へ向かうエレベーターの中で二人ともこんな失敗は二度としないと肝に銘じた。


2012.02.26 up