Menado Ensis

Photo by 戦場に猫  Designed by m.f.miss

GOD EATER

思ったより用事が長引いて随分遅れてしまった。

リンドウが足早にミーティングルームへ入ると、すでに二人とも揃っていた。
次の任務の指示書だろうか、手元の書類をめくっているツバキに向けてリンドウは軽く頭を下げる。
「遅れてすみません、姉上」
「お前が遅れるのはいつもの事だ。もう慣れた」
ツバキの容赦のない一言にリンドウは曖昧に笑う。いつもと変わらない姉とは対照的に、どこか居心地悪そうに身じろぎしているソーマに気がついた。
「ソーマ?」
声をかけると目線だけをリンドウへ向ける。そんな動作にも気まずさのようなものを感じて、リンドウは内心首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「……別に、どうもしねえよ」
「何にもないって顔じゃないだろ。──ひょっとして姉上にいじめられたとか?」
「人聞きの悪い事を言うな」
リンドウの軽口にツバキが笑って口を挟む。
「だって前例がありますからねえ。名前を呼ぶまで返事をしない、とか」
「いつの話だ、それは。今日は少し雑談をしていただけだぞ」
「へえ、珍しい事もあるもんですね。それで一体何の話をしていたんですか?」
リンドウが屈託無く尋ねる。ツバキはちらりと横目でソーマを見たが、すぐにリンドウの方に向き肩をすくめてみせた。
「そんなに面白い話ではない。どうすれば背が伸びるのか、という話をしていただけだ」
なあ、とソーマに話しかけるとぎこちなく頷いた。
「ははあ。お話はわかりましたが、それだけですか?」
「そうだな。一応、女性に向かって大女というのはどうかと思うぞと釘を刺しておいた」
「何だ。やっぱりいじめられてたんじゃないですか」
「……お前に言わせると、私が何を話してもいじめているみたいじゃないか」
「姉上がきつい事言うのは、それこそいつもの事じゃないですか」
今頃気付いたんですか。大げさに両手を広げたリンドウを睨みつけ、ツバキはわざとらしく咳払いして話題を逸らした。
「──前置きが長くなったが、明日の任務の説明をするぞ」
「はいはいっと。次は何でしたっけ?」
返事をしながらソーマの様子を窺うと、わずかにほっとしたような顔をしているように見える。
やっぱり何かあったんだろうか。これは後で腹を割って話し合いをせねばと決意も新たに、姉の話に耳を傾けた。


2012.08.05 up