Menado Ensis

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GOD EATER

ふと会話が途切れた時に、思い出したようにゲンが尋ねた。
「そういえば、もうじきお嬢ちゃんの誕生日だろう。その日くらい休みを貰って実家に帰ったりしないのか?」
お嬢ちゃんがちっとも顔を見せに行かないから、家族だって寂しがっていると思うぞ。
軽口を言って笑ってみせるゲンとは対照的に、ツバキは僅かに眉根を寄せて手元のカップに視線を落とした。
「誕生日を祝う習慣はありませんし。……それに」
「それに?」
「──家族にはもう、会えませんから」
そうか、とばつの悪そうな顔をしたゲンを見て、あらぬ誤解をされてしまった事に気がついたが まあいいかと口を噤む。いちいち説明するのも面倒だ。他人から見れば、些細な子供の喧嘩にすぎない。窘められて仲直りするように言われるだけだろう。

家族に会いたくないとは言わないが、二度と顔を見せないと約束したのだ。 自分が意地になっているだけなのはわかっているけれど。

「じゃあ、当日は俺が祝ってやるよ。他に何か欲しいものとかは無いのか?」
何でもいいぞと気まずい雰囲気を吹き飛ばすようにゲンが殊更に明るく言った。
別に、と答えれば、お嬢ちゃんは欲が無いなと苦笑される。その物言いがまるで子供扱いされているように感じて、ツバキはムッとした顔でゲンを見た。
神機使いになってからまだ一年足らずだが、同じ年頃の者は何人も居る。女性もだ。なのに何故自分だけがお嬢ちゃんなのだろうか。

「その『お嬢ちゃん』て呼ぶの、やめてもらえませんか」
「ん?何でだ?」
「子供扱いされているようで嫌なんです」
「そうは言っても、お嬢ちゃんはお嬢ちゃんだろう」
俺からすれば、子供にしか見えないからなあ。仕方ないだろう、と笑いながら頭をかく。
「……わかりました。じゃあ、お祝いの代わりに『お嬢ちゃん』と呼ぶのをやめて下さい」
「いや、それは」
「何でもいいって言ったじゃないですか」
「うーん、まあ、それもそうだな。それじゃあこうしよう」
こんな事でもむきになってる所が子供なんだよな、と微笑ましく思いながらゲンが折衷案を出した。
「お嬢ちゃんが一人前になったら、ちゃんと名前で呼ぶってのはどうだ?それくらいになれば、俺の認識も変わっているだろうし。今はまだ半人前なんだから子供扱いは当然だ」
「…………わかりました。それでいいです」
諦めたようなため息を一つ吐くとツバキは立ち上がり、これから任務だからと言ってゲンと別れた。 その背中を見送りつつ、ゲンは意地の悪い笑みを浮かべる。

────名前で呼ぶとは言ったが、お嬢ちゃんと呼ばないとは言ってない。

我ながら性格が良くないなと思うが、それこそ諦めてもらうしかないだろう。自分にとっては、いつまでたっても彼女は『お嬢ちゃん』なのだ。


2014.08.18 up