Menado Ensis

Photo by 戦場に猫  Designed by m.f.miss

GOD EATER

01.真っ直ぐに手を伸ばす 【タツミとソーマ】

眼の前に差し出された手を、穴が開くほどまじまじと見つめてしまった。
何度か瞬きしてみたが変わらずにそこにある。変なものでも見るように動きを止めてしまったソーマの頭上から、苦笑を滲ませた声が聞こえてきた。
「別にとって喰いやしねえよ。──ここ、段差がキツイから、さっさと掴まって上って来い」
ほれ、とタツミが笑いながら催促する。どうしようかと思案したが、確かにこの段差は自分にはきつい。大人しく手を借りる事にした。
「よっ…と。足元に気をつけろよ」
差し出された手に掴まると、軽々と持ち上げられてしまう。危なげなく着地して、ソーマは一瞬の躊躇いの後に小声で呟いた。
「……助かった」
「なーに、いいってことよ!困った時は、お互いさまって言うだろ?」
振り向いたタツミに頭を軽く小突かれる。その表情を見ていると、自分が子供扱いをされているように感じてしまい何となく面白くない。
「──わかった」
「何が?」
「お前が動けなくなったら、引き摺ってでもアナグラへ連れ帰ってやる」
お互いさまってそういう事だよな。一人で納得して頷く。ちらりと隣にいるタツミを見れば、何やら微妙な顔で視線を彷徨わせていた。
言うべき言葉を探しあぐねている、という感じだろうか。 タツミが何か言うのを待ってみたが、返ってくるのは沈黙だけだ。言い返そうと口を開いて、けれど言葉にならずに二度三度と口を閉じたり開いたりしている様子を確認して、よし勝った、と心の中で拳を握る。
困らせてやったと思うと少しだけ気分が良い。

「先、行ってる」
一言断りを入れると、まだ固まっているタツミを置いて、ソーマはさっさと歩みを進めた。


2010.08.08 up
タツミは面倒見が良さそうという妄想。



02.噛み合わない空気 【リンドウとツバキ】

「あー姉上。……何事ですか、その格好は?」

呆れた様子のリンドウに声をかけられ、ツバキはそんなに変な服装だったろうか、と自身を見下ろした。
「この衣装に何か問題でもあるのか?」
別段おかしな所は無いはずだ、と小首を傾げるツバキに、リンドウは居心地悪そうに眼を彷徨わせる。
「いや、問題と言うかですね。その、──ちょっとばかり大胆すぎません?」
「見られて困るところは、ちゃんと隠れてるぞ」
「ああそうですか……」
遠まわしに注意をすれば、真顔で即答された。
じゃあ、そのけしからん胸の谷間は見てもいいんだな、とうっかり考えてしまい、リンドウは慌てて咳払いをして誤魔化した。ほんのりと頬が赤く染まっているのは、きっと気のせいに違いない。
うろたえるリンドウを不思議そうに眺めた後、ツバキは口元に笑みを浮かべて言った。
「人の事より、まずは自分の事を見直したらどうだ。その指揮官上衣の中は私服だろう?部隊長なのだから、きちんとした服装の方が良いんじゃないか?」
「こっちの方が動きやすいんで」
笑いながら頭をかくリンドウに、思わずため息がこぼれる。
「全く。お前といいソーマといい、自分たちは好き勝手にしているくせに、人の服には文句をつけるのか」
「へえ、ソーマが?」
何て言ってました?リンドウが興味本位で尋ねると、何か思い出したようにツバキは顔をしかめた。
「──『少しは隠せ、この露出狂』」
「あー……それは」
照れ隠しにしても酷すぎる。どうフォローするべきか、と考えるリンドウの耳に、不機嫌そうなツバキの声が聞こえてきた。
「大体フェンリルから支給された制服を、そのまま着て何が悪い」
「へ?!」
リンドウが顔を上げると、ツバキがヒールを鳴らして去っていくところだった。その背中のエンブレムを呆然と見つめてぽつりと呟く。

「支給品……確かに」
ひょっとして男の教官も露出が凄いのかな、と思考の停止した頭で突拍子もない事を考えた。


2010.07.21 up
リンドウと引退後のツバキ。現役時代からは、ちょっと想像つかない露出度ですよね。



03.意識を手放す 【ツバキとタツミ】

強く肩を揺さぶられて、ツバキは眼を開けた。そのまま視線を上げると、心配そうに顔を覗き込んでいるタツミと眼が合う。
二三度目を瞬かせると、タツミはほっとしたように安堵の息をついた。
「──良かったぁ」
何故そんなに泣きそうな顔をしているのだろう、と思いつつ体を起こす。眠い眼をこすりながら周りを見渡して、自分が床の上に横たわっていた事に気がついた。
任務から戻ってきて、報告書を出した所までは覚えている。その後の記憶がふっつりと途切れていることから、どうやら自室に戻る途中で力尽きてしまったらしい。

しまった。とんだ失態だ、とツバキが考えていると、タツミが唇を尖らせて抗議してきた。
「びっくりさせないで下さいよ。死んでるのかと思ったじゃないですか」
「ん?ああ、すまないな。驚かせてしまったようだ」
「すまないな、じゃないですよ。本当に。確実に5年は寿命が縮みましたからね」
まったくもう、と口の中でぶつぶつ言いながら、立ち上がろうとしているツバキに手を貸す。
「部屋に戻るんでしょ?送っていきますよ。またそこら辺で寝られちゃたまりませんからね」
「……その事なんだがな、タツミ」
「はい?」
先に歩き出していたタツミが振り向くと、ばつが悪そうな顔をしているツバキと眼が合った。
「さっきのこと、他の連中には黙っていてくれないか」
「ああ、心配されるからですか?」
「それもあるが……これ以上、子供扱いはされたくない」
不満気な顔をしているツバキを見て、そんなところが子供っぽいんだよなあとタツミは破顔する。
「いいですよ。──そのかわり、今度サクヤちゃんを誘ってどこかに出掛けたいんで、応援して下さいよ?」
「……サクヤと一緒に出掛けたいのなら、リンドウも一緒に誘うのが確実だと思うぞ」
「やっぱりそうなっちゃいますか……」

がっくりと肩を落としたタツミの背中を、ツバキは励ますように叩いた。


2010.07.28 up
タツミはきっと1回くらいはサクヤを口説こうとした事があるに違いない。



04.そりゃそーだ 【リンドウとサクヤ】

空を見上げて今日も良い天気だな、とぼんやり思う。
今日はもう任務も無いし、平和なのはいい事だとのんびり考えていると、すぐ側でサクヤの尖った声がした。

「ちょっとリンドウ!聞いてるの?!」
「んー……あんまり」
こう陽気だと眠くてさ。悪びれた様子も無く笑うリンドウに、サクヤは不満気に頬を膨らます。
「いっつもそうやってはぐらかすんだから」
「悪い悪い。で、何の話だっけ?」
「今度のお休みの話!どこかに連れて行ってくれるんでしょ?」
嬉しそうに眼を輝かせて話すサクヤに、リンドウは申し訳なさそうに言った。
「あーその件なんだけどな」
「え、また駄目になっちゃったの?」
「いや、そうじゃなく。──タツミとソーマが一緒でも構わないか?」
「……どうして?」
「まだソーマとそんなに仲良くなれてないからな。一緒に遊びに出かけて、少しでも打ち解けられれば、と思ってさ。背中を預ける以上、相手がどんな人間か知っておきたいだろ?」
「……」
「サクヤ?」
俯いてしまったサクヤに、心配そうに声をかける。具合でも悪いのかと肩に手をおくと、サクヤがぱっと顔をあげた。
「──うん、わかった!やっぱり大事なことだもんね。今度のお休みは、皆で出かけよう!」
そう言うとサクヤは笑顔をみせた。何かまずい事でも言ったかと不安だったリンドウは、その笑顔にほっとする。
「そうか、良かった。じゃあ、後でまた連絡するわ」
立ち上がったリンドウの裾を、サクヤが軽く引っ張る。
「ん?どうした?」
「……その次のお休みは、二人っきりで過ごしてくれる?」
上目遣いでこちらを不安そうに窺ってくるサクヤの髪を、リンドウは笑って優しくかき回した。
「ああ。勿論」
楽しみにしてる。微かに呟いて、サクヤもようやく笑みを浮かべた。


2010.08.01 up
リンドウって自分に向けられる感情には鈍感そうなイメージが。



05.眠り姫が隣にいる 【ソーマとシオ ※】

手の中の端末に眼をやり、ソーマはため息をついた。
「まったく……」
ソーマの膝の上で端末をいじっていたシオが、勝手にあの新型へメールを送っていたことに気がついたのはつい先ほどの事だ。
一体どこで操作を覚えたのか油断も隙もない。慌てて念押しの為のメールをしたが、明日顔を合わせたら絶対にからかわれるだろう事を考えると気が重い。
挙句に、遊び疲れたらしいシオが膝の上に頭を乗せて寝ているので身動きもとれない。
同じ体勢で長時間過ごすのは結構辛いんだな、とぼんやり考える。

──こんな風にのんびりするのは、随分と久しぶりかもしれない。
(立て続けに色々あったからな……)
その最大の要因は、膝の上ですやすやと寝息をたてているのだが、あえて考えない事にした。
幸せそうな顔で眠っているのが何となく癪に障って、無造作に髪の毛を掴むと軽く引っ張ってみる。二度、三度と引いてみるが一向に眼を覚ます気配が無い。
足が痺れてきたので起こそうかと思ったのだが、それは諦める事にした。
「……一つ、貸しだからな」
シオの頭をそっと撫でながら、ソーマはぽつりと呟く。その口元は、わずかに綻んだようにみえた。


2010.08.10 up
ソーマからメールが届いた時は、ニヤニヤしたものです。