Menado Ensis

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GOD EATER

01.可愛いわがまま 【ソーマとツバキとリンドウ】

「なあ」
「……」
任務の打ち合わせ中に、ソーマが珍しく傍らのツバキに声をかけた。が、ツバキは顔も上げずに手元の書類に眼を通している。しばらく待っても返事をする様子は無い。書類をめくる音だけがやけに大きく響いた。
「あー…姉上、呼ばれてますよ?」
見かねたリンドウが助け船を出した。ツバキはリンドウを一瞥しただけで、また手元に眼を落とす。
「──おい。人がさっきから呼んでるのに、聞こえてないのか」
苛立ちを隠さずにソーマが言うと、ツバキが書類に眼を向けたまま答えた。
「人の話を聞いてないのは、お前の方だろう?」
「何だって?」
「私に用があるのなら、名前で呼べと言った筈だぞ」
「……!」
その返答にソーマが顔を顰める。
「大体リンドウやタツミは名前で呼んでいるのに、何故私の事は呼べないんだ。女の名前は覚える必要が無いとでも?」
話しているツバキの声音に、僅かにからかうような響きを感じて、リンドウは息を吐いた。

──これは絶対に遊んでいるな。

からかわれているソーマに同情の眼差しを向けると、何とかしろと目線で訴えてくる。
リンドウはしょうがねえなあと頭をかいた。一つ貸しにしておいてやるか。
「まあ、姉上もそのへんにしてあげて下さいよ。ソーマも女性の名前を呼ぶのが照れくさい年頃なんでしょうし」
「そうなのか?」
ツバキが傍らのソーマに訊いた。ソーマに何て事を言うんだ!と思いっきり睨まれたが、リンドウは肩をすくめただけだ。
「……そんな事は言ってない」
「ふうん。なら一度呼んでみろ。違うのなら呼べる筈だろう?」
ぐっと答えに詰まったソーマが、しまったという顔をしたがもう遅い。気まずい雰囲気のなか二三度躊躇ったあと外方を向いて呟いた。
「──……隊長」
「まあいいだろう。妥協しよう」
ようやくツバキは顔を上げてソーマを見た。その口元が微かに笑っているように見える。

「ったく。人にからかうなって言っておいてコレだよ……」
任務中でなければいいのかね。思わず小声で本音を漏らすと、リンドウはがっくりと肩を落とした。


2010.08.24 up
お互いが名前で呼んでいると、対等な立場って感じがしませんか。



02.遅くなるのかな… 【リンドウとサクヤ】

仕事の合間にほっと一息ついていると、リンドウが受付へやってくるのが見えた。
「お疲れ様、これから仕事?」
「ああ。もう面倒な仕事ばっかり押し付けられてな。大変だぜ」
大げさに肩をすくめるリンドウに、仕方ないよ、とサクヤは笑いながらミッションの受注作業を進める。
その手馴れた様子を見てリンドウは眼を細めた。
「大分慣れてきたなあ」
「そりゃあ毎日これだけやってればね。今日は新人さんとの任務?」
「あー、今日は一人で寂しくお仕事なんだ」
「え、そうなんだ。大変だね」
「まったくだ。これが可愛い子とデートだったら、俺も少しはやる気が出るんだけどな」
「それは残念だね」
リンドウの軽口をさらりと受け流す。サクヤがあまり反応しなかったせいか、リンドウは気まずそうに頭をかいた。
「はい、ミッションの受注終わったよ。──今日は食事の時間までには帰ってこれそう?」
「んー……出来るだけ早く終わらせるつもりではいるが、ちょっと厳しい、と思う」
「そう…」
「悪いな」
すまなそうな顔をしたリンドウに、サクヤはつとめて明るく言った。
「ううん、いいの。気をつけて行って来てね」
「ああ」
じゃあ行ってくる。リンドウが片手をあげて挨拶すると、とサクヤが小さく笑って手を振る。

──待ってるから、早く帰ってきてね。


2010.09.30 up
仲間が無事に帰ってくるところを見るまで、不安で一杯になりそう。



03.うまくいかない 【タツミとソーマとリンドウ】

タツミに持ちかけられた相談に、ソーマは珍しく声を荒らげた。
「絶対に嫌だ!」
「そんなムキになるなよ。別にちょっとぐらいいいじゃねえか」
全身で拒絶を示す小さな同僚を見下ろして、タツミはニンマリと笑う。
「お前くらいの年頃じゃないと駄目なんだって。な、いいだろ?」
「いい訳あるか。そんなもの、一人で勝手にやってろ」
何とか丸め込もうとするタツミと断固拒否するソーマの後ろから、のんびりとリンドウが顔を出した。
「おー、何だか盛り上がってんな。俺も混ぜてくれよ」
「リンドウさん!?あ、いや、別に大した事じゃないですよ」
慌てて取り繕うタツミを尻目に、リンドウはソーマに話しかける。
「隠さなくてもいいだろ。で、一体何の話をしてたんだ?」
「……」
「だから!本当に大した事じゃないんですってば!!」
「大した事じゃないかどうかは俺が決める。──ついさっきリッカが『タツミさんが新人を苛めてるみたい』って告げ口に来たから、まあ、その確認にな」
大丈夫だとは思うが、念の為だ。そう言って肩をすくめたリンドウが、目線でソーマを促す。
「ソーマ」
「……今日の配給のメニューに、苦手で食べられない物があるから取り替えてくれって交渉しろって言われた」
「はあ?」
「皆、子供には優しくするだろうから、頼むって──」
「へえ」
間の抜けた声が出てしまったのは、仕方の無い事かもしれない。呆れたようにタツミを見ると、ばつの悪そうな顔をしていた。
「いや、あの、以前食べた時に、後ろから脅かされて、喉に詰まらせちゃったんですよ。それ以来、ちょっと食べるのが怖くて、ですね」
「あー…なるほど」
「それで、ソーマに代わりに交渉してもらえないかって頼んでたところに」
「俺が来た、と。まあ、何にせよ苛めじゃなくて良かったわ」
リンドウが疲れたような顔をして、ふーっと大きく息を吐く。
「そういや、何でソーマはあそこまで拒否してたんだ?」
ふと尋ねてみると、ソーマは僅かに俯いて眼をそらした。その態度に小首を傾げつつ重ねて訊く。
「ソーマ?」
「…………俺、好き嫌いするほど子供じゃねえ」
その答えに、リンドウは眼を丸くしたあと盛大に吹き出した。


2010.09.07 up
ソーマは子供扱いされるのが嫌いなのかな、と思います。



04.くすぐったい想い 【雨宮姉弟とソーマとタツミ】

「次の休暇の時にでも、髪を短くしようかと思ってる」
任務の合間に雑談していた流れで、ふと言ってみたらタツミが驚いたように声をあげた。
「え、切っちゃうんですか?もったいない!」
「大分長くなってきたし、動く時に邪魔だからな」
フードの中に入れておくのもそろそろ限界だからと告げると、残念そうにタツミは肩を落とした。
「せっかく綺麗なのに……」
「そんなにショックを受けるような事か?」
「……というか、お前が髪を切ったらリンドウと区別がつかないだろ」
今まで黙って聞いていたソーマがぼそりと呟く。
思わず眼を見張ってソーマを見ると、ふいと視線を逸らされた。隣のタツミは俯いたまま肩を震わせている。どうやら笑いを堪えているらしい。
そのまま視線を動かすと、何やら微妙な顔をしているリンドウと眼が合った。
きっと今の自分も微妙な表情をしているのだろうなあ、と思いつつも一応訊いてみる事にした。
「──似ているか?」
「……どちらかと言われれば、似てるんじゃないですかねえ。姉弟ですし」
「区別がつかないくらいに?」
「あー……分け目が違うから、大丈夫、かな?」
真面目に話し合っていると、とうとうタツミが我慢できずに吹き出した。ソーマでさえ微かに肩を震わせている。
「あっもうこんな時間だ!早く任務行きましょうよ!」
タツミがわざとらしく二三度咳払いすると、慌てて立ち上がった。ソーマも続いてエレベーターへ乗り込む。何か言おうかと思ったが、まあいいかとリンドウと顔を見合わせて肩をすくめる程度で済ませ、合流するべくエレベーターへ向かった。

任務に向かう頃にはそんな話をした事は忘れていたが、他の3人はそうでもなかったらしい。任務終了後に、こそこそと何か話し合っていた。


翌日。ツバキが受付にいたサクヤに話しかけると、彼女は笑いながら何かを差し出してきた。
「はい、コレ」
「何だ?」
「髪留め。髪の毛が邪魔で、動きにくいんでしょ?良かったら使って」
「それはありがたいが……他の連中から何か聞いたのか?」
サクヤは笑みを浮かべたまま困ったように眉をよせると、内緒なんだけど、と小声で話し出した。
「それがね、昨日任務から戻ってくるなり、『頼みがある』って。あんまり真剣だったから何事かと思ったんだけど、『髪留めをプレゼントしたいんだけど、ツバキさんの好みがわからないから見立ててくれないか』って言うのよ」
もうびっくりしちゃった。そう言ってサクヤは朗らかに笑う。
「私もツバキさんの髪は長い方が好きなの。だから、切るなんて言わないで」
「……わかった。これは、ありがたく使わせてもらおう」
差し出された髪留めを受け取ると、ツバキは微笑んだ。


2010.09.16 up
プレミアムキャラクターに追加されたツバキさんの髪型も可愛いですよね。
memo にあげたものに、ちょっとだけ修正入れました。



05.じゃあ、頑張ってみようかな 【コウタとゲンさん ※】

「あー、もう!またやっちまったぁ……」

エントランスで盛大にため息をついたコウタに、ゲンが笑いながら声をかけた。
「どうした。また何かしでかしたのか?」
「それがさあ、さっきの任務でちょっとだけ、──ほんのちょっとだぜ?ミスしちゃって。そしたらさあ、ソーマが『お前やる気あるのか』って言うんだぜ!」
俺だって頑張ってるのに。傷つくなあ、とコウタは頭を抱えてしまった。
「まあ、そう言ってやるな。ソーマだって悪気があった訳じゃない。神機使いってのは、一瞬の油断が死を招く現場に居るんだ。お前だってわかってるんだろう?」
「そりゃあ、わかってるけどさあ……あのすかした態度がムカツクんだよなぁ。格好つけてる感じ?がするっつーか」
不満気に唇を尖らせていたコウタが、ふと面白い事でも思いついたように顔をあげる。
「なあ、ゲンさんってさ、アナグラに出入りするようになってから結構経つ?」
「ん?ああ、それなりに長いと思うが」
ゲンの答えに、コウタは眼を輝かせた。
「じゃあさ、じゃあさ!ソーマの新人時代の面白い話とか知ってたりしない?笑っちゃうような失敗談とか!」
「昔のソーマの面白い話、ねえ……」
そう言うと、ゲンは顎に手をやって考え込んだ。その様子にコウタが期待に満ちた眼を向ける。
期待しながら待っている姿はまるで犬のようだな、とゲンは口元を緩ませた。
「そうだな。次の任務で、お前の戦績がソーマを上回ったら──と言いたいところだが、それは無理だろうから、自己ベストを更新したら、ソーマの昔話をしてやろう」
「ええぇ、マジで!?……ひょっとして、ゲンさんって結構スパルタ?」
後半はもごもごと口の中で呟いて、コウタは大きく伸びをした。
「ソーマのあんな話やこんな話が聞けるんなら、これはもうやるしかないじゃん!」
「少しはやる気が出たか?」
「出た出た。もう次の任務が楽しみで仕方ないぜ。じゃ、今日はもう休んじゃおうかな」
にっこり笑って部屋に戻ろうとしたコウタの動きが途中で止まる。

「どうした?」
不思議に思ってゲンが問いかけると、コウタは顔を引き攣らせながら振り向いた。
「……ツバキさんに呼び出されてたの忘れてた。今日の補習、すっぽかしちゃった、かも」
どうしよう、と半泣きなコウタの肩に手を置く。すがるように見上げてくるコウタに、ゲンは僅かに首を振った。
「今からでも遅くはない。悪い事は言わないから行って来い。な?」

この世の終わりのように、がっくりと肩を落として歩いていくコウタの後ろ姿を、何とも言えない気持ちで見送った。


2010.09.29 up
次の任務で妙に張り切るコウタを、不気味そうに見守るソーマを想像したら萌えた。