Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

ここでしばらく待つように、と通された部屋で、エーレンは見知った顔を見つけた。
懐かしさを感じるほど共に過ごした訳ではないが、戦友には違い無い。壁際に寄りかかっている彼に近づいていくと、向こうも気付いていたらしい。嫌そうな顔をしたが、エーレンは意に介さずに口元に笑みを浮かべて声をかけた。

「久しいな、アドニス。元気そうで何よりだ」
「テメエも相変わらずだな。商売敵の無事を喜んでどうする」
馬鹿じゃねえのか、と続けられたアドニスの嫌味にも大して気にも止めた様子もない。
「今は商売敵、では無いのだろう?ここに君が居るという事は、これからは仲間になるのだから」
「フン。まだどうするかは決めてねえ。今日のところは話を聞いただけだ。受けるかどうかは報酬次第だな」
「そうか。では、無事に契約が成立する事を願おう。お前とは、もう一度共に戦ってみたいと思っていたからな」
「寒気がするような事を平然と言うな。テメエみたいな奴のお守りなんざ願い下げだぜ」
心底嫌そうにするアドニスがよほど面白かったのか、エーレンは声を立てて笑った。

「……何がそんなに面白いんだよ」
「いや、すまない。お前もまったく変わらないな、と思ってな」
「テメエは俺に喧嘩売ってんのか?やるんなら表に出やがれ」
「それは遠慮しておこう。私が怪我でもしたら、連れが悲しむからな。──この後はどうするんだ?アドニス。いつも通りに酒場で情報収集か?」
「もうやってる。きな臭え噂話を山ほど聞けたぜ。この国は戦争を始めようとしている、とか」
「ああ。どうやらそうらしいな。大陸を統一して平和な世界を築く、と聞いているが」
真剣な顔をしたエーレンに、アドニスは鼻先で哂う。
「あんな戯言を信じてんのか?世界を人の手に取り戻す、とかいうふざけた話じゃねえか」
「その志に賛同したから、私はここに居るんだ」
お前は違うのか、と言外に問われている事には気付かない振りをして、アドニスは唐突に話を変えた。

「一つ、面白い話をしてやろうか」
「何だ」
「──ロゼッタの宮廷魔術師は、神の手先だっていう話だ」
「……!」
「連中にしてみれば、大きな戦争があった方が都合がいいんだろうしな。まあ、その辺も承知の上で賛同してるんなら、別にいいんじゃねえの」
険しい表情を崩さないまま、エーレンはアドニスに問いかける。
「お前は、どうなんだ」
「俺か?俺は金さえ貰えれば、何が相手だろうと戦ってやるよ」
「……そうか。興味深い話をありがとう」
エーレンはかすかに息を吐くと、にこやかに笑いかけた。

「アドニス。この後は暇なんだろう。一緒に食事でもどうかな?紹介したい者がいるんだ」
「ああ?ふざけんな。寝言は寝てから言え。テメエと一緒に飯なんて喰いたくねえよ」
「大丈夫、とても良い子なんだ。きっと気に入ると思うぞ」
嫌悪の表情を浮かべたアドニスを、ものともせずに微笑んでいるエーレンの耳に、軽快な足音が聞こえてきた。


「──来たな。アドニス、私の連れを紹介しよう」

もう知っているかもしれないが、と意味有りげに笑い、エーレンは外の人物を迎え入れる為に扉を開けに行った。


2010.02.28 up