Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

「もう、どうしてそんな事言うの!」

帰路の途中で聞こえてきた声に、エルドは顔をあげた。
聞き間違いでなければ、あの声は戦乙女の宿主である王女のものだろう。
今日は珍しく声を荒らげているようだ。誰かと喧嘩でもしているのかと視線を向けると、木陰に一人で座っている王女──アリーシャの後ろ姿を見つけた。
「だから、これで最後にするって言ってるでしょう?いいじゃない、別にシルメリアには関係ないわよ」
大きな独り言だと思えば、どうやら戦乙女と会話しているらしい。傍から見ていると奇人の類にしか見えないな、などと考えつつエルドは声をかけた。

「さっきから一人で何をブツブツ言ってんだ?」
側に人が居るのに気付かなかったのだろう。急に声をかけられて、アリーシャは驚いたように振り向いた。
「あ、エルドさん……。いつからここに居たんですか?」
「ついさっき来たばかりだ。どこで戦乙女と話そうがお前の勝手だが、もう少し場所は選んだ方がいいんじゃねえか。一人で叫んだり怒ったりしてると、奇人にしか見えねえぞ」
「……すみません」
「別に謝るような事じゃねえだろ。で、こんな所で何やってるんだ?」
「え、それはその……お腹が空いたので、これを食べようかと思って」
小声で答えながら、アリーシャは手に持っていた小瓶を持ち上げてみせた。中身は乾燥させた果物がいくつか入っているようだ。
これのどこに戦乙女と喧嘩する理由があるのか。エルドは内心首を傾げた。
いくつになっても、女子供の考える事はさぱり理解出来ない。

「さっさと喰えばいいじゃねえか」
「そうしたいのはやまやまなんですけど……」
アリーシャは困ったように笑うと、手の中の小瓶を見つめた。
「開かないんです」
「──は?」
「昨日食べた時に、きつく閉めすぎてしまったみたいで。さっきもシルメリアに『つまみ食いはやめなさいって事じゃないの』って言われてしまって」
「……へえ」
我ながら間抜けな声が出た。そんなくだらない事で大声を張り上げていたのか。やはり女というものはよくわからない。エルドは溜息混じりに小さく呟いた。
「これが平和って事なのかもしれねえな」
「え?」
エルドを見上げて首を傾げるアリーシャの手から、ひょいと小瓶を掴んで蓋を捻る。 軽い音を出して小瓶の蓋が開いた。
隣で眼を丸くしているアリーシャに小瓶を握らせて、エルドは踵を返した。
「あ、ありがとうございますっ!」
去っていくエルドの背中にアリーシャは声をかける。返事は無いかと思ったが、エルドは振り返らずに軽く手を上げた。

「──そうね。私もシルメリアの言うとおりだと思うわ」
ぶっきらぼうだけど、相変わらず優しいのね。ぽつりと呟いたシルメリアの言葉に、アリーシャは微笑んだ。


2010.04.29 up