Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

01.小さな始まりのときに 【魔智とジェシカ】

「は?」

聞こえてきた言葉の意味が理解できずに思わず問い返すと、ジェシカは俯きながらも繰り返して言った。
「あのぅ、貴方が呪術とかに詳しいとお聞きしたので、その、一つお願いしたい事があるのですが……」
魔智は眉間に皺をよせて、ジェシカを見た。
わざわざ呪術に詳しいと前置きした上での話だとすると、思い当たる事は一つしか無い。
人は見かけによらないなと考えながら、ジェシカに尋ねる。

「誰か、死んで欲しい人間が居るのかい?」
「え?」
「呪術師に用があるんだろう?」
「ええっ!?あ、ちっ違うんですっ!そうではなくて!」
慌てたように弁明するジェシカに、魔智は首を傾げた。 他に何か使い道があっただろうかと考えていると、ジェシカが両手を握り締めて叫んだ。
「その、実は私、お慕いしている方がおりまして……それで、あの、こっ恋占いは出来ますかっ!?」

「…………は?」
もの凄く間抜けな声が出たが、ジェシカは気にした様子も無い。拳を握ったまま耳まで真っ赤にしているジェシカを見下ろして、魔智はますます皺がよっている眉間に指を当てる。
「──つまり、意中の人の気持ちがどこにあるかを知りたい、と」
「はい!」
ジェシカの期待に満ちた眼で見つめられて、魔智は盛大に息を吐く。手近な所に咲いていた花を毟り取り、ジェシカの眼前に突きつけた。
「その程度のことなら、呪術は必要ない。これで充分だ」
「これって──このお花が、ですか?」
「そうだ。花の種類は何でも構わない。まずは、相手の事を思い浮かべる。次に適当なところから、好き、嫌い、好き……と花びらを一枚ずつ千切るんだ。最後に残った一枚が、相手の気持ちだ」
言いながら花びらを一枚ずつ千切って実演してみせる。ジェシカが頷くのを確認して、魔智はつまらなそうに言葉を付け足した。
「あくまで気休め程度だから、過信はしない方がいい」
「わかりました!あの、ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げて、ジェシカは踵をかえした。早速試してみるのだろう。
女っていうものは、こんな状況でも前向きに生きていけるんだと感心する。魔智は微かに口元に笑みを浮かべると、少しだけに女性に対する考え方を改めた。


2010.07.19 up
アンケートで人気だったキャラその6。
ジェシカって世間知らずというか、箱入り娘っぽいイメージがあります。



02.君がいた日々は 【セレスとローランドとリシェル】

やっぱりやめておけば良かったかもしれない。

セレスは早くも後悔し始めていた。相席しているのは、ローランドとリシェルだ。
二人とこうして話すのは、カミール丘陵の大戦以来なのではないだろうか。特に理由は無いのだが、セレスはこの二人が苦手だった。
この居心地の悪い空間から早く逃げたくて仕方が無い。さっさと用件を済ませてしまおう、と意を決して顔を上げた。
「あの……お二方は、アドニスの素顔をご存知ですか?」
唐突なセレスの言葉に、優雅にお茶を飲んでいたリシェルの眼が丸くなる。
「まあ。何故そのような事をお知りになりたいのですか?」
「確かに。共に戦う上では必要の無い事だと思いますが。──何か理由がおありになるのかな?」
二人に尋ねられ、セレスは両手で茶器を握り締めて眼を伏せた。
「実は、人を探しているんです。……その人が選定されているとは限らないのですが」
その人物の特徴や出会った状況などを説明すると、ローランドは面白そうな顔をした。
「その彼とアドニスが同一人物だと思っているのかい?」
「いえ、そういう訳では……」
ただ確認したいだけなんです、とセレスが言うと、リシェルが笑って口を開いた。
「ローランド団長。意地悪をしてはいけませんわ」
「リシェル殿」
「隠すような事ではないのですから、知りたいのなら教えてさしあげれば良いのです」
期待を込めてセレスがリシェルを見つめる。その視線を感じながら、リシェルはただ、と続けた。
「セレス王女は何か勘違いしておいでのようですが」
「勘違い?」
「ええ。──アドニスの素顔なんて、眼が二つあって鼻が一つで、口が一つあるだけですわ」
澄ました顔でリシェルが答える。呆気にとられるセレスの隣で、ローランドが高らかに笑い出した。


2010.07.25 up
アンケートで人気だったキャラその7。
年長者二人にからかわれるセレスの図。



03.どうしても言えなかった 【セルヴィアとザンデ】

ザンデは何度目かの寝返りをうった。
木陰で昼寝をする、とセルヴィアに言ったら、それでは子守唄でも歌いましょうかと言うので、笑顔でお願いしたのはつい先程のことだ。
普段なら横になればあっという間に眠ってしまうのに、今日はなかなか寝付けない。
眼を閉じたまま眉間に皺をよせて、ザンデは原因と思われるセルヴィアの歌声に耳を澄ます。

(コイツの歌って、何か調子外れだよなー)

吟遊詩人って言ったもの勝ちなのかなあなどと考えてしまい、ますます眼が冴えてしまった。
やっぱり悪いけどやめてもらおうと、薄目を開けてセルヴィアの顔を窺う。

──その横顔が、あまりにも楽しそうだったから。
ザンデは微かに苦笑すると、そのまま眼を閉じた。


2010.07.25 up
アンケートで人気だったキャラその8。
セルヴィアが、クリスティですら逃げ出すほどの音痴だったら面白そうですよね。



04.手を伸ばした先へ 【ディーンとリディア】

眼の前で退屈そうに座っているリディアに、ディーンは苦笑しながら声をかけた。
「待たせて悪いな。もう少しかかるみたいだ」
「……別に、それは構わないけど。何で私なの?」
クリスティの新作のお菓子の試食を頼まれたのは、昨日の夜だ。部屋に戻る途中でディーンに声をかけられたのだ。
甘いものは不得意ではなかったし、特に用事がある訳でもないので了承した。こんなに待たされるとは思っていなかったが。

「セルヴィア様が、アンタのことを気にかけてたから」
「えっ、貴方たち知り合いだったの?」
「ああ。生前からの付き合いなんだ」
「そう……」
知らなかったわ、と両肘をついてため息をつくリディアを宥めるようにディーンが笑った。
「まあ、アンタとはあまり話もした事なかったからな。知らなくても無理はないよ」
「……ありがと」
「どういたしまして。ところで、前から思ってたんだけどさ」
何だろうと小首を傾げたリディアの眼前に、ディーンは指を立ててみせた。
「もう少し肩の力、抜いた方がいいんじゃないか?」
「……」
「そりゃあアンタも色々あったんだろうし、急に言われても難しいだろうけど。セルヴィア様だっているし、俺もクリスもいるからさ」
もっと気楽に過ごせる時間が、あってもいいんじゃないかな。そう言って片目を瞑ってみせるディーンに、リディアははにかんだ笑みを浮かべる。

「──そうね。覚えておくわ」


2010.07.25 up
アンケートで人気だったキャラその9。
ディーンは他人と仲良くなるのが上手そうな印象が。



05.そしてまた続いていく 【ゼノンとファルクス】

卓の上に置かれた茶碗と薬包みを前に、ゼノンは深く息を吐いた。
無意識に胃の辺りに手をやりさすっていると、対面で同じようにため息をついている人物がいるのに気がつく。
まさかと思い手元に眼をやると、やはり同じ薬包みを持っている。ゼノンは口元に微笑を浮かべると、その人物に声をかけた。
「ファルクス。貴方もソロンのお世話に?」
こちらを向いたファルクスに手元の薬包みを見せると、ファルクスは肩をすくめてみせた。
「ああ。一緒に組んでいるヤツが馬鹿ばっかりするから、後始末が大変でな」
「それはそれは……同情するよ」
「同情してくれるんなら、ぜひとも変わってくれ」
「変わってあげてもいいけど、あまり変わらないと思うよ」
「──お前の組んでる相手って誰だ?」
「エルドとアドニス、それにフィレス王女かな」
「……悪い。前言撤回するわ」
そんな連中と一緒になんてやってられないぜ、とファルクスは脱力する。その様子をみながらゼノンは苦笑するしかない。

「言うほど酷くは無いよ」
「お前は人間が出来てるなあ。俺は嫌だぜ。あんな協調性の欠片も無い連中」
「何だかんだ言っても、皆いい人ばかりだよ。一度組んでみればわかるさ」
ゼノンが微笑みながら言うと、ファルクスは両手を上げた。
「──わかったよ。お前の仲間はいい奴ばっかだ」
「貴方の仲間だって、いい人ばかりなんだろう?」
「んー……まあ、な。馬鹿な事ばっかりしてるが、憎めないな」
頭を掻きながらそっけなく言うファルクスに、ゼノンは笑顔で頷く。
「もうしばらくは、お互いにこれのお世話になりそうだね」
まったくだ。ファルクスは心の底から同意した。


2010.07.25 up
アンケートで人気だったキャラその10。
この二人って胃痛持ちっぽいですよね。苦労性の宿命というか。