Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

01.高き人へおくる 【ミトラとソロン】

この青年が入り浸るようになって、かれこれ一月は経つだろうか。

今日も昼下がりくらいにふらりとやって来て、手製だという茶を持参していたので湯を沸かして喉を潤した。
香りを楽しみつつ、ちらりとソロンを見ながら以前にも言った事を言う。
「もう教える事は何も無いと言ったはずだが?」
ソロンは面白そうに片目を瞑り、口の端に笑みを浮かべてこう答える。
「俺はアンタという人物に興味があるんだ」
お構いなく、と茶目っ気たっぷりに返されて苦笑した。もう何度も繰り返されたやり取りだ。これ以上は言うだけ無駄だろう。

ミトラは空になった自分の茶器におかわりを注ぎつつ、話を変えた。
「このお茶は本当に美味いな。香りもいい…売り物にする気はないのかね?」
「そりゃあどうも。アンタが気に入ってくれたんなら嬉しいぜ。人間誰しも一つくらい特技があるもんだからな──それに、だ」
声をひそめてソロンが囁いてくる。

「どうせ飲むなら美味い茶の方が、研究がはかどると思わないか?」
根っからの探求者の青年に、思わずミトラは相好を崩した。


2008.09.21 up
この二人って意気投合してそうなイメージが。



02.歌うように、祈るように 【エルドとフィレス】

「おい、何度言ったらわかるんだ。俺に構うなっていつも言ってんだろ」
「あら、いいじゃない。別に減るものじゃないんだし…それに、構うなって言われると余計に構いたくなるものなのよ?」
フィレスの言い分に、エルドは心底嫌そうな顔をした。
「何だそりゃ……じゃあもっと構ってくれって言えば、ほっといてくれんのかよ?」
エルドの疑問にフィレスはにっこりと微笑んで答える。
「あら。その時はご希望通りにたーっぷりと構ってあげちゃうわよ?」
「もういい。黙れクソババア」
半ばうんざりした様子で呟くと、足早に去っていくエルドの後姿をフィレスは笑顔で見送った。
「はいはーい。また後でね」

エインフェリアになってから、いや生前から自分に対してああいう風に分け隔てなく接してくれる人はいなかった。
彼といると、英雄や女王としてではなく一人の人間として過ごせる。こんなに素敵なことは無いだろう。

──エルドには悪いけど、まだまだたっぷりとつきまとってあげちゃうんだから。

ひそかにそう決意すると、フィレスはにんまりと笑った。


2008.10.13 up
相手が誰であろうと、エルドはエルドなんだろうな、と。



03.そっと伸べた両の手 【ローランドとリシェル】

満天の星空を見上げながら、ローランドはリシェルを振り返った。
「どうやら、今夜は夜襲はなさそうだな」
「そのようですわね。ようやく一息つけます…時には休息も必要ですから。ローランド団長にも、私にも」
そういうとリシェルは微笑んだ。

そんなリシェルの様子を、ローランドは穏やかな眼で見つめる。
「そうだな。今夜は熟睡できそうだ」
珍しく軽い冗談を言うローランドをリシェルも見つめ返した。
「昼間の戦闘での指揮も、素晴らしいものでした──私は貴方と共に戦える事を誇りに思っていますわ」
「誇りに思うのは、こちらも一緒だよ。君が居てくれるから、俺も戦える──ありがとう」
口元に笑みを浮かべているローランドに見つめられて、リシェルの胸は高鳴った。その事を悟られたくなくて、慌てて目をそらす。

「あ…その、わっ私、もう休みますわねっ。ローランド団長も、今夜は早めに休まれたほうが良いと思いますわ!」
それでは失礼します──とあっという間に去っていったリシェルを、ローランドは唖然とした表情で見送った。


2008.09.20 up
ローランドは無自覚なのがいい。



04.どうか君へ、と 【魔智】

生きていく為には仕方のない事だったと思う。
俺が君の立場でも同じ事をしただろう。君が気に病むことなど何も無いのだ、と言えれば良かったのに。

ただ一言を告げる時間も無かった。君が話したせいで、捕まって処刑される訳にはいかなかったから。
最後に会った時に泣いていた君が、罪の意識に苛まれないように──逃げるしかなかった。

故郷を後にしてから、情報はまったくと言っていいほど入って来なかった。君はどうしているのかと少しだけ気になったのも確かだ。
死してなお君を恨む気持ちは無い。けれど、ただ一つ。君の一生が幸せなものだったのか──幸せに暮らしてくれたのならいいなと思う。そして、願わくは。

俺のことなど忘れていてくれるように。

未だに君に心を縛られている。


2008.09.21 up
魔智は親友のことが好きだったのではないかと思います。



05.想いは今も変わらず 【ファーラント】

「本気なのか、お前」
ああ、と頷いて、ファーラントは自分を見下ろしている親友をまっすぐ見つめた。
「どんなに無謀でも、無茶でもだ──ラッセンを取り戻す」
「無謀なんてものじゃないだろう!死ぬ気か、この馬鹿野郎っ!」
「俺が馬鹿なのは、今に始まった事じゃないぞ」
お前にだってわかってただろ?軽く笑いながらファーラントが言う。

──ああ、そうだな。もう長い付き合いだからわかってるさ。お前がこういう顔をする時は、何を言っても無駄だ。

「…あの人の為なんだな」
ため息を吐きながら諦めたように言う親友に、ファーラントは破顔した。
「さすがは俺の親友だ。わかってるじゃないか」
「当たり前だろ。何年一緒に居ると思ってるんだ──お前の考える事なんて、何から何までお見通しだ」
憮然とした態度を崩すことなく告げられたその言葉に、ファーラントは勢い良く立ち上がり表情を引き締める。
「それじゃあ、行こうか」

あの人の還る場所を取り戻すために。


2008.09.23 up
夢破れて還って来た時に、心休める場所を。