Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

01.その姿は今も 【フィレスとセレス】

「──って言うのよ、あの子」

ぽかぽかと気持ちのいい昼下がり。久しぶりに姉妹水入らずでお茶をしていた。もっとも話をするのは大体フィレス一人で、セレスは曖昧に頷いているだけなのだが。

ふいに何か考え込むような表情をしたセレスに、フィレスは茶器を手にしたまま軽く首をかしげて問いかけた。
「どうかしたの?」
「……その人、一度だけ見たことあるかもしれないわ。人違いじゃなければ、の話だけど」
「ああ、確か姉さんもカミールには参戦してたんだっけ。どんな人だった?」
何か面白いことがあったらあの子に教えてあげようと、軽い気持ちで訊いてみた。
セレスは俯きながら、そっと右頬に手を当てて呟く。
「殴られたわ。兵たちの前で思いっきり。……乱暴な口調だったし、とてもじゃないけど、そんな事をするような人には見えなかった──私は嫌いよ、あんな人」
「……へぇ、そうなんだ」
「あの男もひょっとしたら選定されているかも、と淡い期待をしていたのだけれど……いないみたいなの。残念だわ。もし再会できたなら、決闘でも申し込んでやろうと思ってたのに」
どこか遠くを見つめながら語る姉を前に、フィレスは硬直してしまった。


どうやらこの人も、彼の正体に気づいてはいなかったらしい。

たかが兜くらいでそんなに印象が違うものなのか──彼の素顔にもの凄く興味が湧いたが、その疑問をぎこちない笑顔の裏に隠して、フィレスはさりげなく話題を変えた。


2009.05.05 up
クレセントの初恋の話の後日談。



02.凛と声は響いて 【ザンデとファルクスとソロン】

「くらえッ!ザンデ流ジャスティスソード!!」
「ジャ…何だって?」

思わず聞き返したファルクスに、不満顔でザンデが答える。
「何寝ぼけたこと言ってんだよ。決め台詞っていったら”ジャスティスソード”に決まってるだろ?」

当然、と言わんばかりの態度に二の句が告げないでいると、背後からソロンが口を出してきた。
「なるほど…そうやって自らを鼓舞して士気を上げるんだな」
奥が深いぜ、と一人で頷いてる。その様子を横目で見ながら、いや絶対違うと思う、と心の中で断言する。

「大体さあ、お前は細かい事考えすぎなんだって!」
そう言ってザンデはファルクスの肩をばしばしと思い切り叩いた。
「ウダウダしてるよりやってみた方が早いって。ほら、一緒にやってみろよ!」
いくぜー、と笑顔で敵の方へ走っていく。

「ザンデ流ミラクルスラーッシュ!」
「ソロン流ヴォルカニックフィーバー!!」
「……テメェまでやんのかよ…」

何だか頭痛がしてきた。溜息を一つすると、決意を新たに剣の柄を握り直す。
( この戦闘が終わったら、絶対に、パーティメンバーを変えてもらう…!! )

そのままファルクスは全力で敵に突っ込んでいった。


2009.05.17 up
ファルクスは苦労性なイメージ。



03.冷たくも優しく 【魔智と紗紺】

転んだ、というより盛大な音を立てて顔から突っ込んだ、の方が正しい表現かも知れない。

何度目かわからない呪詛を口の中で呟きながら立ち上がった紗紺に、魔智は呆れた態度を隠しもせずに声をかけた。
「……お前は何度転べば気が済むんだ。ひょっとして転ぶのが趣味なのかい?」
「うっ──うるさいっ!この辺が悪路すぎるのよ!決してアタシが鈍い訳じゃ無いんだからあっ!」
睨みつけながら言い返してきた紗紺を横目に嘆息する。

「何でもいいから足を動かせ。もう随分と置いていかれてる」
言うなり、紗紺の返事も聞かずに、すたすたと先へ行ってしまう。
「あ、ちょっと!待ちなさいよっ」

慌てて追いかけながら、先程から感じていた疑問が頭をよぎる。
( コイツってば、アタシがはぐれないように、待っててくれてる? )
そういえば、何だかんだ言いながらも転んだら起き上がるまで立ち止まっていてくれてる気がする。

一度そう考えてしまったら、そうとしか思えなくなってきた。

にやけてきた顔を引き締めようと、頬を軽く叩いていたら、急に魔智が振り向いた。
「おい。足元に気をつけてないとまた──」
転ぶぞ、と言おうとした矢先に、紗紺が派手な音を立てて地面に突っ込んだ。

「……これは、日没までに追いつくのは、難しいかな」
だんだん薄暗くなってきた周りを見つつ、魔智は肩を落とした。


2009.05.17 up
微妙な距離の二人。



04.越えた冬の日のあとに 【ローランドとフローディア】

「フローディア。君に一つ訊きたい事があるんだが、構わないかな?」
急に改まった口調で話しかけられ、フローディアは少し緊張しながら返事をした。
「何でしょうか?団長」
「うん……その、リシェル殿の事なんだが」
かろうじて聞き取れる程度の声で俯きながら話す内容が、あまりにも予想外すぎて思わず聞き返してしまったのは仕方の無いことかもしれない。

「──は?」
「っだから!あの……その、リシェル殿の事、で訊きたい事が、あるんだが…」
まさか聞き返されるとは思わなかったのだろう。ローランドはほんのりと頬を赤くしながら、もう一度ちゃんと言い直した。

「最近、少し避けられているようなんだ。ひょっとして怒らせるような事をしてしまったのかと、不安になってね。君は彼女の副官だから、何か知らないかな、と思って──」
「ああ、その事ですか」
「心当たりがあるのかい?!」
「ええ、まあ。ローランド団長に対して失礼な事をしてしまったので、合わせる顔が無い、とか何とか」
「失礼な事…?ああ、あの時のことか。そんなに気にする事は無いのに」
怒らせてしまったのではないとわかって安心したのだろう。ほっとした顔をしてフローディアに笑顔で話しかけた。
「君からも、あの時の事は気にしなくていいと彼女に伝えておいてくれないか?」
「はあ、わかりました」
腑に落ちないながらもフローディアが頷く。
「よろしく頼む。さあ、先を急ごう」

軽快な足どりで前を歩くローランドを見ながら、フローディアはふと眉根を寄せた。

(何か、忘れているような…?)


彼らが同行者の二人の事を思い出すのは、もう少し先である。


2009.06.08 up
『冷たくも優しく』の反対側の二人のやり取り。



05.揺るがぬように立って 【エーレンとアドニス】

「もう少し自分を大事にしたらどうだ?」

何度目かの戦闘が終わった時、つい声をかけてしまった。眼前に居るのは、先の戦いで殿を務めた青年だ。
声をかけられた青年は、二三度瞬きするとにやりと哂う。

「人の心配をする前に、自分の事を考えたらいいんじゃねえか?子連れで戦争なんて、どう考えても足手まといがいいところだろうが」
死にたいのかよ、と軽口を叩いて踵を返した。その背に追いすがるように、ずっと考えていた事をぶつける。

「──君は、正攻法で戦っても十分強いじゃないか。何故、そんな自らを貶めるような手段まで使うんだ」
返事は無いかと思ったが、振り返りもせずに青年は答えた。

「なりふり構っていられねえんだ、俺は」

そのまま片手を上げて立ち去っていく青年の後ろ姿を見送って、エーレンは小さく息を吐いた。


2009.06.09 up
戦時中の雑談。まだ素顔の頃のアドニス。