Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

01.見つめる先の未来が 【ジェラルドとティリス】

もう夕刻に近い頃、最近流行っている雑貨屋へティリスが向かっていると、その店のすぐ近くで不審な行動をしている人物が視界に入った。
うろうろしている男の様子を注意深く窺う。ふとその姿に見覚えがある事に気がついた。あれは、確か。

「──ジェラルド?」
急に名前を呼ばれ、驚いたようにジェラルドが振り返った。
「あ、貴女は確か、シルメリア様の──」
「ティリスよ。こうして話すのは、初めてだったかしら。先程からここに居るみたいだけど、貴方もあの雑貨屋に用があるの?」
ティリスが笑いながら尋ねると、ジェラルドは照れたような笑みを浮かべた。
「その、実は、もうじき母の誕生日でして……。幼少の頃には祝った事など無いので、折角だから何か贈り物をしようかと思ったのですが、あの店は女性ばかりなので、その、勇気が出なくて……」
昼前からうろうろしていたんです、と困ったように頭を掻くジェラルドに、ティリスは呆れたように笑う。
「そんなに前からここに居たの?」
「ええ、まあ。……ひょっとして怪しい人物に見えましたか?」
「少しだけ、ね。私もあのお店に用があるの。良かったら、ご一緒しましょうか?」
「あ、いいんですか!?ありがとうございます」

横に並んで店に向かいながら、ジェラルドが意を決したように尋ねてきた。
「あの、こんな事を相談するのもどうかと思うんですが、女性って何を貰えたら嬉しいんですかね?」
「そうねえ……美味しいお菓子とか可愛い小物とか花束とか色々あるけど、まずはお店に行ってからにしましょうか」
「そ、そうですよね。あの、すみません緊張してしまって……」
あまり女性と会話する機会が無いもので。はにかみながら微笑んだジェラルドの背中を、ティリスは勢いよく叩く。

「そんなもの、すぐ慣れるわよ。──さ、気合入れて行きましょうか。値引き交渉なら任せておきなさい!」


後日。無事に母に贈り物を渡せたジェラルドが少し女性不信気味だったのは、また別の話。


2010.01.14 up
アンケートで人気だったキャラその1。
ジェラルドが女性にどう接していいのかわからなくて、狼狽えていたら可愛い。



02.大切な君へ 【エルドとクリスティとフィレス】

差し出された焼き菓子の匂いに、エルドは顔を顰めつつ一応訊いてみた。

「……これは、一体何の嫌がらせだ?」
「あのですねっ!あたし、セルヴィア様の為にお菓子を作ってみたんです。けど、初めてだから自信が無くて……。あ、甘さはちゃんと控え目にしたんですよ!セルヴィア様って甘い物が苦手だから。で、貴方も甘い物苦手だってお母様から聞いていたので、味見してもらいたいんですけど良いですか?」
にこにこと笑いながら一息で喋るクリスティを見て、隣に座っているフィレスが呆れたように笑う。

「ごめんねーいきなり。この子ったら言い出したら聞かないのよ。一体誰に似たのかしら。……何よ、その眼は。アタシはちゃんと止めたわよ」
「元はと言えば、お前のせいじゃねえか。余計な事言いやがって」
「あら。アンタが甘い物苦手だって事ぐらい、別に隠す事じゃ無いでしょ?」
無言で睨みあっている二人には気付かないようで、クリスティが無邪気に焼き菓子を差し出した。
「はい、どうぞ!」
これは食べるまで意地でも動きそうに無い。覚悟を決めて、エルドは焼き菓子に手を伸ばすと一口齧る。
「……まあ、悪くは無いんじゃねえの」
「本当ですかっ!?ありがとうございます!じゃあ、早速セルヴィア様に渡してきますねっ」
そのまま勢いよく立ち上がって、クリスティは出て行ってしまう。愛娘の後姿を見ながら、フィレスはからかうようにエルドに声をかけた。

「意外と優しいところもあるんじゃないの」
「……ああでも言わないと、梃子でも動きそうになかったじゃねえか」
「そう?──まあ、アタシの時はお世辞じゃなくて、本当に美味しいって言わせてみせるから覚悟しておきなさいよ」
にっこり笑いながら恐ろしい事を宣言するフィレスに、エルドは心底嫌そうな顔をして見せた。


2010.01.10 up
アンケートで人気だったキャラその2。
クリスティは人見知りしなそうですよね。セルヴィアは何となく辛党なイメージがあります。



03.揺るがぬことの強さを 【イージスとアトレイシア】

鼻歌と共に、水を満たした盥がアトレイシアの眼前に置かれた。
何度目かわからない溜息を吐きながら、盥を置いた男──イージスという名らしい──に問いかける。

「ねえ、まだ続けるの?そろそろ厭きてきたんだけど」
うんざりした態度を隠そうともしないアトレイシアに、イージスは笑いかけた。
「ああ!悪いが、もう少しだけ付き合ってくれ。──今日は調子が良いみたいなんだ。このまま記録を更新してみせるぜ」
少年のように眼を輝かせて言うイージスを一瞥して、アトレイシアは諦めたように頬杖をつく。

「記録って言っても、自己最高はどれくらいなの?」
「フッフッフ……聞いて驚け。五秒だッ!!」
満面の笑みで即答されて、アトレイシアは眼を見開いた。
「……は?今、五秒って言った?」
「以前は顔を水につける事すら出来なかったんだ。それを考えたら進歩してるだろ?」
「それは……まあ、そうかもしれないけど……」
「だろう?じゃ、納得してくれたところで、何秒経過したか数えておいてくれ」
せえの、と掛け声と共に、イージスは盥に顔を浸す。その様子を見て、アトレイシアは肩を竦めた。


「……泳げるようになるのは、まだまだ先みたいね」


2010.01.08 up
アンケートで人気だったキャラその3。
イージスは苦手克服の為に、日々頑張っていそうな気がします。



04.ひたむきな願い手 【ソロンとクレセント】

「あの、男の人って、どんな女性が好きなんですか?」

相談がある、と人気の無い所へ呼び出されたのは、つい先程の事だ。今までに無いクレセントのしおらしい態度に、一体どんな深刻な悩みなんだろうと身構えていたソロンは思わず聞き返してしまった。
「──どんな女性って?」
「えっと、例えば美人が好きとか頭の良い女の人が好きとか、色々あるじゃないですか」
「確かに世の中には色々な趣向の人間が居るが……。要は、あらかたの男が好みそうな女性、って事だな?」
クレセントが頷くのを確認して、ソロンは呆れたように嘆息した。

「そんなもの、本人に訊けばいいじゃないか。エーレンなら隠さずに答えてくれると思うぞ」
「……あの、エーレンじゃないんです。あんまり親しくない人だから、直接訊くのは無理……」
「そうなのか。──まあ、そいつがどんな女性が好みかはわからないが、一つだけ確実な事があるぞ」
そう言うと、ソロンは真面目な顔で人差し指を立てた。
「それはな、『料理が上手い女性』だ。大概の男は美味い料理や家庭的な料理に弱い。男は胃袋で捕まえるものだって誰かが言ってたぜ」
「本当ですか!?そうかあ、料理かあ。──アタシ、頑張りますね!」
満面の笑みで決意表明するクレセントに、一抹の不安を覚えたソロンは恐る恐る訊いてみた。

「なあ、お嬢ちゃん。つかぬ事を訊くが、今まで料理をした事はあるのか?」
「無いです。危ないからってエーレンがやらせてくれなかったの。でも大丈夫!これから誰かに教えてもらうから」
どうもありがとうございました、と頭を下げていったクレセントの後姿が見えなくなるまで呆けたように佇んでいたソロンは、名前も知らないクレセントが思いを寄せる人物に心から同情した。


2010.01.17 up
アンケートで人気だったキャラその4。
クレセントは貴族出身のようなので、料理とかした事なさそうですよね。



05.どうか変わらず、気高くあれ 【ファーラントとアドニス】

偶然相席になったアドニスがこちらを睨んでいるような気配を感じて、ファーラントは不思議そうな顔をして尋ねてみた。
「……俺の顔に何かついているのか?」
「別に何も。それより、テメエの顔どっかで見た事あるような気がするんだが」
「俺と将軍は初対面だったと思うんだが……気のせいじゃないのか?」
にこやかに笑ってファーラントは食事を続ける。まだ視線を感じたが、特に気にするものでもないだろう。

「あ、ファーラント。さっき向こうでシルメリア様が呼んでたぞ」
「そうなのか?ありがとう。後で行ってみるよ」
後ろから声をかけられて振り返って二三話をし、身体を卓の方へ向きなおすと、何やら腑に落ちたような顔をしているアドニスと眼が合った。
「どうかしたのか?」
「ああ、ようやくどこで見たか思い出したぜ。──テメエ、あん時のアイツだろ」
「は?」
思い出した、と言われても、自分はアドニスと会った事も無ければ会話をした事も無い。苦笑いをしながら、ファーラントは茶碗を手に取り一口啜る。

「人違いじゃないのか?俺は、将軍がラッセンを奇襲した時はそこに居なかったぞ」
「違えよ、もっと前だ。──あん時のテメエは、ラッセンの徽章をつけてた」
「……」
「あの後は、色々あって見失っちまったから言えなかったんだけどよ。あん時は助かったぜ。これだけは言っておきたかった。……まあ、テメエが人違いだって言うんならそうなのかもしれねえけど、そいつの代わりに聞いておいてくれ」
「将軍がそれでいいなら、俺は別に構わないが。でも、機会があったらちゃんと本人にも伝えた方がいいと思うぞ?」
ファーラントがからかうように言うと、アドニスは鼻先で笑った。


2010.01.17 up
アンケートで人気だったキャラその5。
アドニスに限らず、傭兵の人達って記憶力良さそうですよね。