Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

01.曖昧な優しさの 【ゼノンとルイン】

「ねえ、貴方って何ですぐに謝るの?」

対面に腰を下ろしたルインにそう問われ、ゼノンはぎくりとした。
そのまっすぐな瞳にどこか居心地の悪さを感じ僅かに身じろぎしながら口を開く。
「何の話だい?」
「さっきの戦闘での事よ。クレセントに謝ってたでしょ?別にこれといった失敗もしてなかったと思うんだけど。目に余るような失態も無いのに、何故謝る必要があったのかしらって」
「ああ、彼女とは生前からの知り合いでね。その時に、とても迷惑をかけてしまったんだ。機会があったら謝ろうと思っていたんだけど、結局死ぬまで会えなくてね」
曖昧に笑ったゼノンに、ルインが不思議そうに眼を瞬かせた。
「……それだけ?」
「うん?」
「たった、それだけ?その生前にかけた迷惑ってやつで、二度目の人生でまで謝ってるの?私、貴方が謝るのを見るの一度や二度じゃないんだけど。一体どんなヘマをしたの」
「取り返しのつかない事さ。──小心者の魔術師が、偶然手にした巨大な力にのぼせ上がって世界を巻き込んだ戦争を引き起こしたんだ。そのせいで、皆にとても迷惑をかけてしまって。何度謝っても許される事じゃないよ」
神を倒し、世界を人の手に取り戻す。──なんて、ふざけた夢を見てしまったんだ。
そう言って自嘲的に哂う。瞬間、ゼノンは額に衝撃を感じた。じわりと痛む箇所に手をあて、驚いた顔で眼前のルインを見やると右拳を突き出した彼女と眼が合った。どうやら軽く小突かれたらしい。
訳がわからない、といった表情のゼノンを睨むように見据えて、ルインは呆れたように息を吐いた。
「貴方ってバカ?」
「な、いきなり何を……」
「私は貴方とそんなに長い付き合いじゃないけど、貴方が生前の事を後悔している事は理解したわ。本当に申し訳なくて、顔を合わせる度に謝罪してしまうって事も。でもね、ゼノン。貴方、相手の気持ちを考えた事はあるの?」
「相手の……気持ち?」
「そう。貴方の言うところの『小心者の魔術師』が掲げた志に賛同した人達の気持ち。神々に逆らってでも叶えたかった望みを、当事者の貴方がふざけた夢なんて言わないで」
素敵な夢じゃないの。もっと自信を持ちなさいよ。にっこり笑ってルインはゼノンの両頬を叩く。しっかりしなさいという意思表示なのだろうが、正直なところかなり痛い。
「──俺が謝る度に、皆が何ともいえない表情をするんだ。やっとその理由がわかったよ。ありがとうルイン」
「どういたしまして。お役に立てたみたいで嬉しいわ」
「でも、もう少し加減してくれても良かったのに。こんな顔じゃ何かあったのかと皆に思われてしまうよ」
「あら失礼。でも私、手加減するのって苦手なの」
ヒリヒリする頬に手を添えて、恨みがましく呟いたゼノンに悪びれない笑顔でルインが明るく答える。

自分のした事は何も変わっていないけれど、ほんの少しだけ胸のつかえがおりた気がした。


2013.01.06 up
アンケートで人気のあった魔術師+軽戦士その1。
ルインは遠慮のない物言いをしそうですよね。



02.あたたかく静かな 【魔智とティリス】

戦闘が終わると同時に、先ほど怪我をしたと思われるティリスに魔智が声をかける。
「大丈夫か?必要なら治療するが」
ぶっきらぼうな魔智の言葉に振り返ったティリスは笑みを浮かべた。
「心配してくれるの?ありがとう。でも大丈夫よ。これくらいの怪我なら、わざわざ魔術で治す必要も無いわ」
「そうか。ならいい」
そっけない態度で他の仲間の方へ歩いて行ってしまう。何を考えているのかわかりにくい表情の魔術師だが、意外と周りを気にかけているようだ。
その背に追いついて、並んで歩きながらティリスは以前から思っていた事を口にした。
「ねえ、前から思っていたんだけれど。これくらいの小さな怪我は、簡単に魔術で治したりしない方が良いと思うわよ」
「……」
「もちろん、さっきのは貴方の優しさだってわかっているわ。でもね、些細な事かもしれないけれど、自然に任せる事も大事だと思うの」
大きな怪我の場合はまた違うけど、日頃から便利なものに頼っていたら甘え癖がついてしまうかもしれないじゃない?
大げさに嘆いてみせたティリスを横目に魔智は頷いた。
「覚えておこう」
「よろしくね」
にこりともしない魔智の背を叩きティリスは足早に仲間と合流した。


2013.01.06 up
アンケートで人気のあった魔術師+軽戦士その2。
感覚の違いとか色々とありそうな。意見のすり合わせって大事ですよね。



03.半透明の未来へ 【ウォルターとジェシカ】

ウォルターは人付き合いが苦手だ。
特に相手が女性だと何を話していいのかわからなくなる。そんな苦労をするくらいなら、実験場に篭って研究に没頭していた方が余程有意義というものだ。
エインフェリアになってもその思いは変わらなかったが、再会した妻にそんな事では駄目だと叱られてしまった。
妻──リリア以外の女性とも無難に話せるようにならなくては、という事で最近仲良くなったという軽戦士のジェシカを紹介され、少しの間話をしてくれという。
最初は気乗りのしなかったジェシカとの雑談だったが、お互いに子供がいるとわかって──共にエインフェリアとして再会出来たという共通点がわかると、あまり苦にならなくなってきた。
「まだ娘が幼かった頃に別れたので、今の娘にどういう風に接したらいいのかわからないのですよ」
「わかります。私も息子に何と言っていいのか不安になりましたもの。でもそのうち慣れます。今はただ、立派になったあの子を見れただけで幸せなんです」
「そうですな……」
ウォルターが頷くとジェシカがふと思い出したように微笑んだ。
「それに、貴方のお嬢さん──リディアさんには、もう素敵なお友達がいらっしゃるみたいですよ。確かセルヴィアさん、とかいう魔術師の方だったかと」
「な、な、な、何ですと!?リディアに、男の友人が!?」
急に取り乱したウォルターを気にした様子もなく、ジェシカはおっとりと答える。
「ええ、二人で楽しそうにお話しているのを何度か見た事があります。今日も一緒にどこかへ出掛けたようでしたよ」
ジェシカの話は耳をすり抜け内容が頭に入ってこない。 まだまだ子供だと思っていた娘に男の友人がいたという事実に、ウォルターは打ちのめされていた。


2013.01.06 up
アンケートで人気のあった魔術師+軽戦士その3。
お父さんは心配性。



04.灯火の影の向こうに 【ファーラントとクレセント】

もともと何を言い出すかわからない人物だとは思っていたが、今日の発言はとびきりだった。

「クレセント将軍はアドニスが好きなのか?」
開口一番に爆弾を投げつけてきた魔術師をクレセントは思い切り睨みつける。
「アンタいきなり何なの。ふざけた事言ってるんじゃないわよ」
「いや、だって将軍が自分から突っかかりに行くのはアドニスぐらいだし」
それに、とファーラントは小首を傾げた。
「噂に聞いた将軍の初恋の人に似ているし。ちょっとくらい考えてみても──」
最後まで言い終わる前に、クレセントはファーラントの胸倉を掴む。そのままぶん殴ってやろうかと一瞬考えたが辛うじて踏みとどまった。
「色々と言いたい事はあるけど、これだけは言っておくわよ。──あの人とあんな奴を一緒にしないで。比べるのもあの人に失礼なくらいだわ。あと一発殴らせろ」
言いたいだけ言うとファーラントの返事も待たずに全力で右頬を殴った。もちろん拳で。
そのまま胸倉を掴んでいた手を離し鼻息荒く踵を返す。
怒れるクレセントの背中を頬をさすりながら見送ってファーラントはひとりごちた。
「……これは、まだまだ先は長そうだな」


2013.01.06 up
アンケートで人気のあった魔術師+軽戦士その4。
思い出は美化されるものパート2。



05.あの朝に似ている 【セルヴィアとセレス】

「何を見ているの?」
声のした方へ顔を向けるとこちらへ向かってくるセレスがいた。
「セレス将軍。おはようございます、早起きですね」
「何だか眼がさえてしまって。それで何を見ていたの?面白いものでもあった?」
「ああ、空を見ていたんですよ」
「空?」
セルヴィアにつられて空を見上げてみたが、自分には何の変哲も無い空に見える。
疑問が表情に出ていたのだろう。セルヴィアが苦笑しながら答えてくれた。
「出奔した日の空にね、少し似ているんですよ」
何だか懐かしくなってしまって。すみません、と頭を下げたセルヴィアに、何といっていいのかわからずに曖昧な顔をしてしまう。気まずい沈黙に耐え切れず、セレスは唐突に話題を変えた。
「そういえば、貴方、フィレスと仲が良いんですって?」
「ええ、まあ」
「あの子と付き合うのは、色々と大変だったんじゃない?」
「それはもう。苦労話なら不自由しないくらいですよ」
セレスの不躾な問いにも気を悪くせずセルヴィアは笑う。
「よろしければ、朝食でも摂りながら俺の苦労話を聞いてもらえませんか?」
「いいわね、それ。是非お願いするわ」
セルヴィアの提案に頷いて宿に足を向ける。今朝はいつもより楽しい話が聞けそうだ。


2013.01.06 up
アンケートで人気のあった魔術師+軽戦士その5。
お互いの知らないフィレスの話で盛り上がりそう。