Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

01.花をあげる 【ザンデとゼノン】

いきなり眼の前に差し出された花に、咄嗟に反応が出来なかった。

軽く首をかしげながら、眼の前に立っている人物を見上げる。
「コレ、やるよ。綺麗だろ?」
「…綺麗だとは思うが、花とは普通、女性に贈る物なんじゃないかな」
眼の前の人物──ザンデ──は不思議そうに眼を丸くした。
「ヘンな事言うなあ、お前。男に花あげちゃいけないなんて誰が決めたんだよ?」
あまりにもザンデらしい言いように、ゼノンは口元を綻ばした。
「確かに、そんな決まりは無いな──ありがたく貰っておくよ」
そう言うと、手を伸ばしてザンデから花を受け取る。ザンデは満足そうに頷いた。

「お前、やっぱりそうやって笑ってる方がいいぜ!」
ため息をつくと幸せが逃げて行っちゃうんだぞ、とにっこり笑う。
自分はそんなに陰気くさい顔をしていたんだろうか──ゼノンが自問自答している間に ザンデは踵を返しながら言った。
「そろそろ先に進むから戻って来い、ってさ。行こうぜ!早く来ないと置いてっちまうぞー!」
じゃあな、と走り去るザンデを見送って、ゼノンは花に目線を落としてひとりごちた。
「ひょっとして、今のは慰めてくれた──のかな?」

くすりと笑みをこぼすと、ゼノンは立ち上がってゆっくりとザンデの後を追いかけた。


2008.09.21 up
ザンデは意外と気のきくキャラだと思う。



02.どこへでも行けそうな 【魔智と紗紺】

灼熱の砂漠の真ん中に突っ立っているなんて、頭がどうかしているんじゃないかと思う。

「よっ犯罪者!元気にしてた?」
片手を上げて挨拶した紗紺に、魔智は一瞥もせずに淡々と言った。
「魔智、だよ。何度言ったらわかるんだカラクリ師…体調はいつも通りだよ。可も無く不可も無い」
「アタシにだって紗紺っていう名前があるわよ」
解放前から変わらずに続くやり取りに、ちょっとだけ安堵する。

「ねえ、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」
興味もなさそうな魔智を無視して話を続ける。
「どうしても必要なものがあってさ。取りに行きたいんだけど一人じゃ無理なのよ…一緒に来てくれない?勿論お礼はちゃんとするわよ」
魔智は、呆れたように嘆息した。
「……それは構わないが、正直、体力には自信が無い。他を当たった方がいいんじゃないか」
「手伝ってくれるのっ?ありがとう!いやあ助かるわー」
後半部分を聞かなかったことにして喜ぶ紗紺に、多少ゲンナリしつつも魔智は尋ねた。
「それで、何処へ行くんだ?」
「今は何て呼ばれてるか知らないけど、アンタとアタシが生まれた島」
案の定、魔智は眼を見開いた。
「なっ──それは、無理だ。俺は行けない」
「何でよ。アタシと一緒じゃ嫌なの?」
「そうじゃない…俺は、故郷を追われた人間だから──」
そう言って俯いた魔智を、腰に手を当てた紗紺が呆れたような声で言った。
「バッカじゃないの、アンタ。それこそ何百年前の話よ。今更誰も覚えてなんていないわよ」
いうなり魔智の手首をむんずと掴む。

「さ、行くわよ!思い立ったが吉日って言うじゃない?」
言い捨ててずんずん進んでいく。

本当、男って世話が焼けるんだから。


2008.09.23 up
ほんのり魔紗風味で。



03.大切な人へ 【ファーラントとセレス】

街の入り口でしばらく立ち尽くしていると、背後から声をかけられた。

「セレス将軍?どうしたんだ、こんな所で」
久しぶりだなと言いつつも、どこか戸惑いを隠せない様子のファーラントを横目で見て、セレスは思っていたことを告げた。

「ここは…昔と、あまり変わらないのね」

ラッセン──昔、自分が裏切った街を、複雑な表情で見つめる。
「何もかもが見慣れないものの中で昔の面影を残しているものを見つけると、少しだけほっとするわ…こんな事、私が言えた義理じゃないんだけど」

そう言って微かに笑ったセレスに、驚きながらもファーラントは笑顔になった。
「だろう?この街は新しいものを取り込みながらも、どこか懐かしい所があるんだ。誰であろうと訪れるものを拒む事は無い──そして、それは今も昔も変わらない」
話しながらセレスの2・3歩前に出て振り向くと、両手を軽く広げて言った。

「おかえり」

本当に嬉しそうにしている魔術師を前に、セレスは幾度か眼を瞬かせた。


2008.09.21 up
解放後のファーラントとセレス。



04.さよならの代わりに 【セルヴィア】

「挨拶の一つもしないで行くつもり?アタシはそんな躾をした覚えはないわよ」
「……こんな夜更けに女性一人で出歩くなんて危ないですよ」
ようやくそれだけ口にしたセルヴィアに対し、フィレスは胸をそらし得意げに答えた。
「一人じゃないわ。シフェルも一緒よ」
予想すらしていなかった名前に、セルヴィアは眼を見開いた。
「ここに?王が来てるんですか?」
「いるわよ、向こうの壁の辺りに。一緒にアンタに声をかけに行こうって誘ったんだけど、遠慮してるみたいよ」
呆けているセルヴィアを横目に見ながら、フィレスは続ける。
「伝言を預かっているわ。『ここは君の家で、僕たちは君の家族なのだから、疲れたらいつでも帰ってきなさい』ですって。ちゃんと伝えたわよ──それじゃあ、アタシからも一言」

そこまで一息に言って、正面からセルヴィアを見つめた。どんな盛大なお説教が来るのだろうと、日頃の彼女を思い出して身構えているセルヴィアに、ふっと微笑みながら言った。

「いってらっしゃい。体には気をつけるのよ」

不意にこみ上げてきた何かをこらえながら、セルヴィアも笑顔で言葉を返す。
「いってきます、姉さん」


2008.09.15 up
セルヴィアが小さい頃フィレスのことを姉さんって呼んでたら可愛いよね。



05.君のささやかな幸せを願い 【セレス】

最初に眼にしたのは、見慣れぬ天井だった。
寝台の上に身体を起こし、周りを見渡す。あまり裕福な家ではなさそうだ。
そこまで考えて、怪我の手当てがしてある事に気付く。ここの家人がしてくれたのだろうか。

「気が付かれましたか」
気配を察したのか、入り口の扉から男が顔を出した。知らない顔だったので、多少の警戒心が湧いてくる。慎重に問いかけた。
「…ここは?」
「ラッセンですよ。俺たちの隠れ家の一つです」
ラッセンと聞いてセレスの顔が曇る。その様子を見ながら男は言った。

「俺はね、ほっとけって言ったんですよ。見捨てた領民の顔なんて見たくないだろうからって──けれどアイツは聞きもしなかった」
唐突な男の話を、セレスは黙って聞いている。
「『あの人の還って来る場所を作りたい』──そう言ってました。そういう訳なんで、さっさと養生して下さいよ」
身を翻して立ち去ろうとする男を、慌てて呼び止めた。
「待って!…その人は、今──」
どこに、と続く言葉を遮るように、男は振り返らずに告げる。
「死にました。先日のアルトリア街道の戦いで」

絶句してしまったセレスをそのままに、男は扉を閉めて出て行った。


2008.09.23 up
終戦後のセレスはどこに居たのかな、と。