Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

第一印象はお互いに最悪だった、と思う。少なくとも、そこから何かが始まりそうな出会いでは無かった筈だ。


永い時を経て、再び現世に呼び戻される事になり数日が経過していた。エルドは相変わらず万全であるとは言いがたい自らの身体に軽く舌打ちをすると、木陰にごろりと横になる。

すぐに慣れるわよ、と涼しい顔をしていた戦乙女の事も、生前の柵など無かったかのような素振りで屈託無く笑うラッセンの魔術師も、何もかもが面白くない。
少しばかり遅くマテリアライズされたせいで、生前の知り合いからは軒並み足手纏い扱いをされ、あまつさえ慰めの言葉をかけられたりする。仕方の無い事だと頭では理解しているものの、これ以上の屈辱には耐えられそうに無い。
今後の為にも一緒に組む顔触れについて戦乙女と交渉しなければ、と決意を新たにしていると、無遠慮にこちらへ近づいて来る人の気配を感じ、エルドは上半身を起こして肩越しに振り向いた。

「あ、居た居た。ねえ、アンタが青光将軍って人?」
声をかけてきた女は見覚えの無い顔だったので、訝しげに眉を寄せる。
「誰だ?」
「アタシ?アタシはフィレスよ。一応、ロゼッタでの戦いにも参戦してたわ」
名乗られた名前にも心当たりは無く、エルドの表情はますます険しいものになっていく。
「……で?そのフィレスさんが一体俺に何の用だ?」
「アンタって弓闘士で将軍職に就いてたんでしょ?一体どんな人なのか興味があったから」
弓一つでそこまで上り詰める人ってあんまり居ないから珍しくって。そう言って笑いながら耳にかかっている髪の毛を押さえたフィレスを横目に、エルドは痛烈な舌打ちを洩らすと立ち上がった。

「お前の暇潰しに付き合ってやる義理なんかねえよ」
踵を返そうとしたエルドの頭上に、フィレスは手をかざして意外そうに言った。
「あら?アンタ、結構小柄なのね。座ってる時はもう少し背が高く見えたんだけど……」
全く遠慮の無いフィレスの物言いに、エルドは顔が引き攣るのを自覚しつつ躊躇い無くフィレスの脛を蹴り飛ばした。
「──っ痛いじゃない!いきなり何するのよ!!」
熱り立つフィレスを無視して、不機嫌を隠そうともせずに移動してしまった。その後姿を見送りながら、思わず本音が零れる。

「何よアレ。──ヘンな奴」


その数日後。ゼノンから、あの女が一年戦争の英雄だと聞かされたエルドは心底嫌そうな顔をした。


2010.01.01 up