Menado Ensis

Photo by 戦場に猫  Designed by m.f.miss

Valkyrie Profile 2

せっかくの休暇にも関わらず、エルドは大人しく寝台で横になっていた。
前日の体力馬鹿どもによる寒中水泳に巻き込まれたせいで発熱してしまったからだ。
まったくもって不覚としか言いようが無いのだが、戦乙女曰く、巻き込まれていた大半の連中は自分と同様に寝込んでいるそうなので、この場合は元気な方がおかしいらしい。

朝よりは幾分マシになったとはいえ、まだ無理は出来そうにない。 大人しく寝ているのにも飽きてしまったので、暇潰しに借りた本に眼を通していると何やら騒々しい足音と共に勢いよく扉が開いてフィレスが顔を覗かせた。
「やっほー元気?お見舞いに来てあげたわよ」
返事も聞かずに部屋に入ってきたフィレスを苦々しく思いながら、エルドは一応言ってみた。
「おい、ノックぐらいしろよ。着替えでもしてたらどうする気なんだ」
「別に?今更その程度の事でうろたえたりしないわよ」
「そういう事を言ってるんじゃねえよ。……もういい、失せろ」
「まあまあそう言わないでよ。いいじゃないの、どうせヒマで退屈してるんでしょ」
話相手くらいするわよ、とフィレスは笑みを浮かべ、部屋にあった椅子を寝台の横へ持ってきて腰を下ろした。こうなってしまうと何を言っても人の話を聞きはしないので、追い出す事は早々に諦めて無視する事にした。
そんなエルドの態度には気付かないのか、フィレスは朗らかに話しかける。
「朝から色んな人の所にお見舞いに行ってきたんだけど、アンタたち昨日みたいな寒い日に水遊びしたんだって?」
「……」
「この程度で寝込むなんて、鍛え方が足りない──って、ザンデが言ってたわよ」
「…………」
「ま、何だかんだ言っても昨日一緒に遊んでたファーラントは魔術師なのに元気なんだし、もう少し体調管理はしっかりした方がいいんじゃない?」
「……──あんな体力馬鹿と一緒にするな。こう見えても俺は繊細なんだよ」
フィレスに何を言われても黙っているつもりでいたがエルドだが、ファーラントより劣っているかのような事を言われてしまっては反論せざるをえない。
嫌々ながらもエルドが返事をしたので、フィレスは嬉しそうに微笑んだ。
「確かにアンタの方がひ弱そうよね」
「喧嘩売ってんのか、お前」
「あら、どうして?アタシはただアンタとお話したいだけじゃない」
ここのところ忙しくて、あんまり顔も合わせてなかったでしょ?元気でやってるのかなって、ちょっと心配してたのよ。こう言ったら不謹慎かもしれないけど、アンタとゆっくり話す時間が出来て良かったと思ってるの。アンタと過ごす時間ってとっても楽しいのよ。

そんな気恥ずかしい事を面と向かって言われて、一体どんな顔をしろというのか。
真っ直ぐに見つめてくるフィレスの視線から逃れるように、わずかに身じろぎするとエルドは手元の本へ眼を落とした。


2011.01.16 up