Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

久々に少しばかり厄介な相手だった。未だ本調子には程遠いとはいえ、酷い失態だと思う。
その戦闘が終了するとほぼ同時に、フィレスが近寄ってきた。

「ちょっと、アンタ大丈夫?」
ウザイ奴が来た、と内心を隠しもせずに盛大に舌打ちをするエルドに、特に気にしたそぶりもせずに世話を焼き始める。
「やっぱり怪我してるわね…そんなに酷くないといいけど。腕は動かせそう?待って、今ゼノンを──」
「っるせえな。俺に構うんじゃねぇよ」
フィレスにつかまれた腕を乱暴にとりかえすと、さっさと先へ進んでしまう。

「何よ、その態度!せっかく人が親切にしてあげてるってのに!」
腰に手をあてて憤慨しているフィレスに、そばに来ていたゼノンがまあまあ、と声をかけた。
「彼に悪気があるワケじゃ無いよ──誰に対してもあの態度だからね」
そんなゼノンを横目でちらりと見ると、フィレスは怒気をひっこめて嘆息した。

「……なあに。それじゃアイツいつもあんな風なの?だったらもっと怪我しないように、後ろに下がるように言えばいいじゃない」
「まあ、彼にも何か思うところがあるんじゃないのかな」
それが何かは知らないけれど、とつけたしのように呟く。

「アンタが知らない事を誰が知ってるっていうのよ。生前から親しかったんでしょ?」
少し離れたところでアドニスと、何か──おそらく今後の進路のことだろう──を話し込んでいるエルドを、ふてくされた様子で眺めながらフィレスは唇を尖らせた。
「確かに俺とエルドは同郷だけど、親しいとまではいかないと思うよ──俺よりはアドニスの方が親しいんじゃないかな?」
カミール丘陵の大戦の時に、幾度か戦場を共にした事があるようだし。
ゼノンは話しながらフィレスの横を通り抜けると、振り返って意味ありげに笑う。
「気になるなら一度、アドニスに訊いてみるといいよ」
そう告げると不満顔のフィレスをおいて、すたすたと先へ行ってしまった。


あれから何度かの戦闘の後、これ以上進むのは危険が伴う可能性があるというので、結局その夜は夜営することになった。

食事も終わり各々が自由に過ごしている中、フィレスはアドニスに声をかけた。
「ねえ、ちょっといい?」
「あぁ?何だよ、俺はテメェなんかに用はねえぞ」
訝しげに答えるアドニスに対し、率直に尋ねる。

「アイツ──エルドってさ、いつも何考えて戦ってるの?」
「何って?そんなもん知るかよ。大方例の逃げ足自慢を殺す方法とかじゃねえのか」
投げやりなアドニスの態度で自分の失敗を悟ると、慌てて言葉を付け足した。
「違うの、そういうのじゃなくて……ええと、何て言えばいいのかしら。そうねえ、信念とか美学とか誓いとか、多分そんな感じのこと」
自分で言いながら本当か、と首を捻りたくなる。どうにもエルドにはあまり似合いそうに無い単語ばかり並んでいるせいだろうか。

そんなフィレスの葛藤をよそに、アドニスはようやく合点がいったようで一人で頷いている。
「何となく言いたい事は分かったが……聞いてどうすんだ?奴は脅されるようなタマじゃねえぞ」
「そんなつもりは無いわよ。ただ、あんまり怪我することが多いと心配じゃない?」
「奴が怪我することが多いのは、テメェが鈍くさいからだろ」
「……はぁ?」
理解出来ずに眼を瞬かせているフィレスをよそに、面白くもなさそうにアドニスが言った。
「テメェだけじゃねえ。他の弓闘士や軽戦士なんかでも同じだ──敵だってんなら別だが、女・子供と年寄りは大事にするもんだって育ての親に教育されてるらしいぜ?阿呆らしすぎて笑っちまうよな」
意外な言葉を聞いて硬直しているフィレスを、アドニスはにやりと哂いながら止めを刺した。

「良かったな。テメェは女で、ガキで、中身は年寄りだから、3重の意味でアタリじゃねえか」
「──っ!!」
その言い様が癪に障って、にやにやしているアドニスを睨みつけると感情にまかせて大声で叫んだ。


「っアンタは!一言多いのよーっ!!」

突如響いた怒号に、すでに就寝していたゼノンが慌てて飛び起きてきて一触即発の雰囲気の二人を見ると、寝ぼけ眼で必死になだめにかかった。


2009.01.03 up