Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

戦乙女は本当に約束を守るのだろうか、と今更になって不安になる。


もう死んでいる筈なのに、ちゃんと自分の足で立っているような気がする。不思議な感覚だな、とぼんやり思う。
仄かに明るい空間で、クレセントは立ち尽くしていた。


──どこへ行けば彼に会えるのだろう。

自分はエインフェリアになる条件として、彼との再会を望んだ。 彼の事だから、エインフェリアに選ばれていないという事は無いと思う。
万が一彼が選定されていないとしたら、戦乙女は自分に嘘を吐いた事になる。
そんな事は無いと思いたいが、長時間ここで途方に暮れてしまっているのも確かだ。

「このまま突っ立ってるよりは、歩いてる方が多少はマシかなあ?でもすれ違ったらイヤだし…」
声に出して考えるのは、自分の悪い癖だ。そういえば彼にも注意されたが、こればかりは直らなかった。
そんな些細な事を思い出して微かに口元を綻ばせていると、背後から控え目に声をかけられた。

「クレセント…?そこに居るのはクレセントなのか?」
不意に聞こえた声に、体をこわばらせる。
「……エーレン、なの?」
恐る恐る振り返ると、懐かしい──とても会いたかった人が立っていた。クレセントを見て昔と変わらず微笑みかけてきた。

「やはりそうだったか。その癖は昔から変わらないな」
数年ぶりに見るエーレンは、昔と何も変わらない。どうしても過去を美化してしまうものなので、幻滅したらどうしようと思っていたが徒労だったようでほっとした。
エーレンはいつでも自分の目標だった。彼に幻滅なんて、する訳が無い。幻滅されるとしたら、きっと自分の方だろう。

自分は彼に、胸を張って恥ずかしくない人生を生きたと言えるだろうか。


どこかぎこちない表情のまま固まっているクレセントを、エーレンは不思議そうな顔で見た。
「どうした?どこか具合でも悪いのか」
エーレンの問いに首を振る。
「違うの……アタシ、エーレンに自信を持って『良い人生だった』って言えるかな、って思って……」
小さな声で下を向いてごにょごにょと告げるクレセントにエーレンは破顔した。
「何だ、そんな事か。それなら見ればわかるぞ」
エーレンの言葉に思わず顔を上げた。

「いい表情をしていて、とても綺麗になった──隣人に恵まれた、良い一生を過ごしたなクレセント」
ずっと張り詰めていた緊張が解けて、泣き笑いのような顔でクレセントはエーレンを真っ直ぐ見て言った。

「はい……とても素晴らしい、良い人生でした」
そして、これからはずっと貴方と一緒に。後半は口の中で小さく呟くと、そのままエーレンの胸に飛び込んだ。


2008.11.24 up