Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

食後のお茶を楽しんでいるルインとアトレイシアのいる食堂に、ザンデが満面の笑みでやって来た。二人に気付いて軽く手を上げて挨拶をすると、ルインの嫌そうな顔にも気付かずに上機嫌で持っていた地図を卓上に広げる。

「なあに?それ、何かの地図?」
アトレイシアが興味深げに覗き込んでいる。よく見てみると地図はこの辺りの地形を記したもののようだった。ある一点に手書きで印がついている。
「ひょっとして宝の地図とか?」
「残念!ハズレだ。この印は宝じゃないんだなあ」
相変わらずニコニコと話すザンデの表情を見て、少しだけ嫌な予感がしてきたルインが恐る恐る訊いた。

「……まさかとは思うけど、これから魔物退治に行こう──だなんて、考えてないわよね?」
「──お前、俺の頭の中覗けるのか?凄い奴だな!」
驚いた表情でルインを見るザンデを、睨みつけながら問いただす。
「貴方、先日も同じような事を言って仲間に怒られたの、もう忘れたの?」
二度と一緒に行動しない、と断言していたファルクスの顔が脳裏に浮かぶ。あのやつれた様子を見る限り、そうとう酷い目に遭ったに違いない。そんな目にあって堪るものか、と密かに決意しているルインをよそに、アトレイシアがザンデに話しかけた。

「何でここに魔物がいるってわかるの?」
「ああ、街で色々と話を聞いたんだ。で、噂話をまとめると大体この辺が怪しいなぁと。結構な数がいるっぽくてよ、一人だと難しそうなんでお前らを誘ってみたんだ。暇ならこれから一緒に行かないか?」
さらりと告げられた内容にアトレイシアが眉をひそめる。
「今、これから?手強そうな魔物なら準備していかないと危ないと思うよ。何でそんなに急なの?」
「んー…ほらアレだ、何だかんだでここの人たちにも結構世話になってんじゃん?で、街の人達にも被害が出る前に退治しようと思ってさ。俺にも出来そうな事ってそれくらいしか思いつかなくてよ」
照れたように頬を掻きながら悪びれた様子も無く笑うザンデに、ルインは両手をあげて天井を仰ぎ見た。
「あーもう!わかったわよ!そんな事言われたら行くしかないじゃない」
「おお、ルインも手伝ってくれるのか!ありがとうな!」
降参したルインに、ザンデは満面の笑みで感謝の言葉を述べる。


「で、話がまとまったところでどうする?万全を期すなら魔術師が居た方が良くないかな?」
アトレイシアが卓上で指をトントンと鳴らす。ザンデも腕を組んで唸った。
「そうなんだよなーやっぱり魔術師は欲しいよなあ。……ソロンに頼めりゃ良かったんだけど、アイツ今居ないからなあ」
「そういえば最近ソロン見かけないけど、どこかに行ってるの?」
「もうじき茶摘みの時期なんで、近くの小屋に篭ってる。収穫が終わるまでは、どこにも出かけたく無いらしいぞ」
アトレイシアの問いにザンデはあっさりと答える。予想外の答えにルインはひっそりと悪態をついた。
「あの役立たず……!今度会ったら絶対にシメてやるんだから……!!」
「──おやおや、何やら物騒な話をしているね。一体誰をシメるんだい?」
独り言のつもりだったのに、背後から話しかけられてルインは飛び上がった。慌てて振り向くと苦笑しているゼノンと目が合う。

「ゼノン!──いやだ、いつから居たの?」
「つい先程だよ。ザンデが居るのが見えたから、先日のお礼に茶菓子でもどうかなって持って来た所さ。よかったら君達もどうぞ。甘いものが平気だったら、だけど」
言われてみれば、確かにゼノンは手土産を持っている。美味しいと街で評判の店の袋だ。あの女性だらけの行列に並んだなんて勇気があるな、とルインが変な方向に感心していると、ザンデがにっこり笑って話しかけた。
「それでわざわざ来てくれたのか?悪いなあ」
一緒に食べようぜ、とザンデに言われてゼノンは卓上に持っていた袋を置くと、そこに広げられている地図に目をやり首を傾げた。

「この辺りの地図みたいだけど、何か相談中だったのかい?」
「ザンデから魔物退治に誘われてたんだよ。街の人への恩返しの気持ちなんだって」
アトレイシアが茶菓子の袋から一つ摘まんで食べながら、先程までの話をする。ゼノンの前に茶器を置きながらルインが顔をしかめる。
「貴女ねえ、それザンデへのお土産でしょ。先に食べちゃってどうするの」
「だって甘いもの好きなんだもん」
悪びれもせずに言うアトレイシアにゼノンは苦笑するしかない。

「そうだ。ゼノンってこの後ヒマだったりする?」
「……特に予定は無いけど?」
「あのね、実は魔術師が居なくてちょっと困ってた所なの。──よかったら、一緒に魔物退治に行かない?」
茶菓子を頬張りながらゼノンを勧誘する。隣に座っているザンデも同意した。
「それは名案だな!ゼノンも一緒に行こうぜ!」
「……貴方達、勧誘するのもいいけど、ちゃんと危険な所だけど大丈夫?って訊かないと駄目よ」
身を乗り出して勧誘する二人に、ルインが一言付け足した。そのやりとりを微笑みながら見ていたゼノンが、お茶を一口啜って答える。
「──いいよ、一緒に行こうか。少し退屈していたところなんだ」
「本当か!助かるぜ、ありがとうな!」
早速席を立ち上がったザンデを見上げて、ゼノンは軽く首を傾げる。

「今すぐ行くのかい?ゆっくりお茶でも飲んで、一息ついてからでも構わないかな?」
「あ、それ賛成!お菓子まだ残ってるし」
もぐもぐと咀嚼しながらゼノンに同意するアトレイシアに、ルインが呆れたように溜息をつく。
「それもそうだな。じゃあ、ちょっと休んでから行くか!」
素直に座り直したザンデが、ルインの眼前に茶器を差し出した。
「俺にもお茶淹れてくれ!」
せっかくだしこのまま作戦会議でもしようぜ、と笑うザンデの意見に三人とも賛成した。


2009.11.22 up