Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

その場所に立ってみても何の感慨も湧かなかった。

ザンデはそんな自分を意外に思いつつも、歩みを進めて閉ざされた扉の前に立つ。古ぼけた扉の前に不似合いな大剣が、開かれるのを拒むように突き立っている。大剣の柄にそっと手を触れると、まるであの日の出来事が蘇ってくるようだ。

──懐かしい仲間たち。彼らは、今頃どうしているだろうか。


「……この場所がそうなのか?」
しばらく物思いに耽っていると、背後から控え目な声がかかった。振り向くと、どこか落ち着かない様子でソロンがこちらを見ている。
何となく漂っている気まずい空気を吹き飛ばす意味も込めて、にっこりと笑いながら、扉を──正確には大剣を──指差した。
「ああ。こいつがさっき話してたヤツなんだ。あの時は俺の仲間が手伝ってくれたおかげで、どうにかここに閉じ込める事には成功したんだけどさ。あれから何百年って経ってるだろ?だから、ちょっとだけ不安になっちまってよー」
ザンデが指した大剣に刻まれた模様を、ソロンはじっくりと見つめる。
「これは……ルーンを利用した封印、か?」
興味深げに近寄ってきたソロンに立っていた場所を譲って、ザンデは少し離れた所へ移動した。

「どうしようかって悩んでたら、戦乙女からお前がそういうの詳しいって聞いたんだ。で、悪ィんだけど、この封印がこのままでも大丈夫か確認してくれよ」
頼むよ!とザンデにあっけらかんに言われて、ソロンは大剣から目を離さずに頷く。
「ああ。こういう面白そうな相談なら大歓迎だぜ」
時折、大剣の模様を指でなぞったり、小声で早口に何かを呟いたりしている。その様子を見ているうちに、ザンデは色々な事を思い出していた。

(そういえば、仲間の魔術師もあんな感じだったっけ。独り言が多くて、いきなり叫び声をあげたり……あの時は大変だったなー)
ソロンの後姿を在りし日の仲間の姿に重ねて、ザンデはくすりと笑みを零す。
(俺って、意外と感傷的なのかもな)
にじんだ空を見上げて、息を一つ吐いた。選んだ道に後悔は無い。けれど、ほんの少しだけ──

「よし、これで完璧だぜ!」
その声に、ザンデは視線をソロンに向ける。満面の笑みのソロンと眼が合った。
「もう終わったのか?」
「ああ。大まかにはあのままでも大丈夫だったんだが、やっぱり多少の綻びがあったんでな。そこら辺は補修をしておいた。いやあ、お前の仲間は凄いな。あの術式をこんな風に応用するなんて。──色々と勉強になったぜ」
「だろう?なんてったって俺の仲間は世界一なんだぜ!」
まるで自分の事のように嬉しがるザンデの笑顔に、いい仲間だったんだな、とソロンは思う。
「んじゃあ帰るか。このまま閉じ込めておけるんなら、わざわざ倒す必要もないしな!」
「……そんな物騒なこと考えてたのか、お前」
さらりと言って踵を返したザンデの横に並びながら、ソロンは肩をすくめた。
「だってよー。ここに閉じ込めたのって俺だろ?そのせいで、この村が酷い目にあったら悪いじゃないか」

肩の荷が下りたようで、帰りの足取りも軽やかだ。今にも鼻歌を歌いだしそうなくらい上機嫌なザンデが拳を突き上げて叫んだ。
「うおおお!!何か滾ってきたから走って帰るぞー!」
あっけにとられたソロンを尻目に、ザンデは本当に走って帰ってしまった。その後姿を見送って、ソロンの口元に苦笑が浮かぶ。
「おいおい……まあ、俺はのんびり帰るか」

先程のザンデの横顔に浮かんだ表情には気付かなかった事にして、ソロンは小春日和な道のりをゆっくりと帰路に着いた。


2009.08.30 up