Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

リシェルは何度目かの寝返りの後、もう寝る事は諦めて起き上がった。
同室のフローディアを起こさないように、そっと寝台から抜け出す。そのまま宿屋の外へ出ると、夜空を見上げて深く息を吐いた。

──この季節になると、果たせなかった約束を思い出してしまう。

次の祭りは、良かったらご一緒しましょう、という他愛の無い口約束だ。今は無き故国の祭りの時期が近づくたびに、ふとした瞬間に思い出す。
二人とも団長としてする事が沢山あったので、たとえ無事に祭りを迎えられたとしても二人で参加出来たかは微妙なところだ。
「私、そんなに楽しみにしていたのかしら……」
ぽつりと呟くと、後ろから控え目に声をかけられた。
「眠れないのかい?」
「──ローランド団長?!」
慌てて振り向くと、いつの間にかローランドが苦笑しながら立っている。
「まあ、いつからそこに?」
「今来たところさ。リシェル殿が外で佇んでいるのが見えたから。──何をしていたんだい?」
「眠れないので、夜風に当たってました。……もうじき故国の祭りの季節でしょう?色々と思い出してしまって」
祭り、という言葉を聞いて、ローランドはわざとらしく一つ咳をするとリシェルに尋ねた。
「その、リシェル殿は、あの約束を覚えているだろうか?」
「え?ええ。覚えていますわ。──あの時は、約束を守れずに申し訳ありませんでした」
「まだ守れなかったと決まった訳ではない、と思わないか?」
ローランドの意図がくめず、リシェルは困惑した表情をみせる。
「ローランド団長?」
「つまり、だな。ここから少し行った所の村で、近々祭りがあるそうなんだが……良かったら、一緒に出かけないか?」
そう言ったローランドの頬が、ほんのり赤く染まっているのが夜目にも見てとれた。
気にしていたのは自分だけではなかった。再び誘ってくれたという事が嬉しくて、リシェルは口元を綻ばせる。
「ローランド団長のお誘いなら喜んで。是非ご一緒させて下さい」

リシェルの返事を聞いて、ローランドはほっとしたように笑った。


2010.09.26 up