Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

散歩も兼ねて近隣の森へ行ってみたら、魔物退治をする羽目になるとは思ってもみなかった。

眼の前の敵が動きを止めたのを確認して、セレスは剣を下ろした。思わずため息をつきそうになるのをぐっと堪える。
そういえば、宿屋で仲間の誰かがこの辺りに魔物が出るとか何とか言っていた──ような気がする。興味が無いから聞き流していた。
とりあえず街へ戻ろうか、と考えていると、こちらへ向かってくる人の気配を感じた。わざとらしく足音を立てているところをみると敵では無いらしい。
近寄ってくる方を向いて待っていると、茂みの中から不機嫌そうなエルドが顔を出した。

「誰かと思ったら斬鉄姫サマじゃねえか」
「……セレスよ。いい加減、その呼び方はやめてちょうだい」
セレスの要望を、エルドは鼻先であしらう。
「こんな所でコソコソと魔物退治とは血に飢えてんのか?人は見かけによらねえな」
「そんなわけ無いでしょう。少し、散歩をしていただけよ」
「魔物だらけって忠告された場所で散歩かよ」
「魔物が出るなんて──聞いてなかったのよ。悪い?」
「またお得意の『都合の悪い事は聞き流す』ってか。いい加減、少しは学習した方がいいんじゃねえの」
「っ!」
エルドの挑発するような物言いに、一瞬かっとなったが拳を握り締めて耐える。ここで怒鳴り返しては相手の思う壺だ。
「……そういう貴方は、こんな所で何をしているの?」
「どこぞの煩い馬鹿女から逃げてきたんだよ。毎日毎日しつこいったらありゃしねえ」
心底嫌そうに吐き捨てたエルドの言っている人物が、誰の事か容易に想像できてしまったセレスは肩を竦めた。
「ああ……それは、迷惑をかけるわね。あの子、思い込んだら一直線だから」
「同情するくらいなら、あの女をどうにかしてくれよ」
「無理よ。あの子は、こうと決めてしまったら人の話は聞かないの」
「そんなところだけは、そっくりな姉妹だな」
むっとした表情でエルドを睨むと、眼の前の弓闘士は素知らぬ顔で腕を組んだ。
「お前どうせ暇なんだろ?じゃあ散歩のついでに、俺の護衛でもしてくれや」
「え?」
「あの女が諦めるまでは、しばらく戻れそうにねえしな」
「ちょ、ちょっと待って!どうして私がそんな事しなくちゃいけないの?」
「妹の尻拭いくらい、お手の物だろ?──それに、だ」
一度話を切ると、エルドはにやりと嗤った。
「か弱い弓闘士の護衛くらいは、頼まれなくてもするもんだぜ」

じゃあ、先に行ってるからな。さっさと来いよ。振り返りもせずに歩き出したエルドの背中に、セレスは呆れたように呟いた。


「貴方のどこが『か弱い』っていうのよ……」


2010.08.21 up