Menado Ensis

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Valkyrie Profile 2

「ここ、座ってもいいかしら?」

長椅子に腰掛けてゆったりと寛いでいたファーラントの頭上から、控えめな声が降ってきた。
視線を動かして話しかけてきた人物を認め、ファーラントは笑う。
「ああ、確かアークダインの──」
「フローディアよ」
「よろしく。フローディア。ラッセンのファーラントだ」
名乗りながら少し横へ移動してフローディアの座る場所を作ってやる。
ありがとう、と頭を下げてフローディアはファーラントの隣へ腰を下ろした。
「何やらお疲れみたいだな」
「最近ずっと呼び出されていたから。ようやく一息ついたところなの」
まったく団長達ったら人使いが荒くって。口では文句を言いながらも、その顔は笑っている。
「確か、あんた達は生前からの付き合いだったよな?」
「そうよ。私達四人は同じ国の騎士団だったの。私はリシェル様の副官で、あいつはローランド団長の副官で。生きてる時は色々あったけど、また皆に会えて良かったと思ってるわ」
「そうか。それは良かったな」
笑顔で相槌を打つファーラントに、フローディアはずっと疑問に思っていた事を訊いてみた。

「──貴方は?」
「ん?」
「貴方は、誰か生前の知り合いは居ないの?」
「そうだなあ。弓闘士のエルドや軽戦士のクレセント将軍が一応、顔見知りになるのかな」
「そういう言い方をするって事は、あんまり仲が良くなかった?」
「というより、仲が良くなりようがないというか。敵同士だからな」
ちなみに俺を殺したのがクレセント将軍だ。
笑顔で話すファーラントに心底驚く。フローディアにも似たような経験があるが、自分の場合は自殺のようなものだ。それでも再会したばかりの頃は、どこかぎこちなかった。最近はようやく以前のように接してくるようになったが。
目の前の男は、敵だった相手を顔見知りといい、屈託なく話しかける。 一体どういう神経をしているのかとひそかに舌をまいた。
「じゃあ、貴方の仲間だった人は?選定されていないの?」
「いないよ」
「一人も?」
「ああ」
「……あのね、とても失礼な事を訊いてしまうと思うのだけど。──寂しくはないの?」
「今のところは寂しいと感じた事は無いな。何でそう思うんだ?」
「今、一人で選定されている人って、大体が生前でも一人きりで過ごしていた人達でしょう?でも、貴方は違う。ずっと仲間と一緒に居たわけじゃない。それが急に知り合いが誰もいない所へ放り出されたら。──私だったら寂しいし、どうして私は一人なんだろうって思う。貴方は違うの?」
怒らせてしまったかもしれないと思いつつ、ファーラントの様子をそっと窺うと何やら考えこんでいるようだった。
そんな難しい事を訊いただろうかとフローディアは首を傾げる。
考え事の最中のようだが、そろそろ声をかけるべきか迷っているフローディアの耳に微かな呟きが届く。
「そういう考えもあるのか……!」
「────は?」
「いや、俺自身はさっきも言った通り寂しいとは感じないんたが、君みたいに思う人もいるんだなと思ってさ」
「……寂しいと感じなかったのなら、貴方はどう思ったの?」
「嬉しかったよ。ここに自分一人しか居ないという事は、俺の仲間達はもう戦う必要が無いって事だろう?」
もちろん会えたら会えたで嬉しいんだけどな。
そう言ってファーラントは晴れやかな笑みを浮かべた。フローディアもつられて苦笑する。

どうやら眼前の魔術師は、とんでもなく前向きの人間らしい。
フローディアは脱力しそうな体に力を込めつつ、心配して損したと小さく呟いた。


2012.07.02 up